![]() | <33> |
約六十人の部員は唇をかみしめ、キッと加藤を見据えながら「はいっ」と一声。三月の演奏会に向け、合奏練習は佳境に入った。「負けるなよ、自分に。ライバルは自分自身だからな!」。加藤はあえて厳しい要求を課す。生徒は必ず、自分で答えを見つけるからだ。 音楽教諭として浜松高台中で四年、曳馬中で五年教え、与進中に赴任し六年目。いずれも吹奏楽部顧問を務め、曳馬中は平成五年から四年連続、与進中は同十年から五年連続で全日本吹奏楽コンクール東海大会に出場した。指導者として表彰された経験も持つ。 快挙の秘密は自主練習重視の指導方針にある。合奏練習は土日に行う程度。生徒が独自に課題を定め、各楽器パートごとに音を合わせる個別練習に多くの時間を費やす。共同作業がリーダーシップを生み、同時に自信とやる気を育てる。 背景には、高校時代の苦い思い出がある。信愛学園高(現浜松学芸高)音楽科にトランペット専攻で入学し、初めての演奏会。加藤は極度に緊張し、数十秒間演奏しただけで完全に指が止まってしまった。「地獄の四分間でした。人前で演奏する怖さを知った」 自信の裏付けが無ければ演奏できない。自信は努力でしか生まれない。加藤は連日、日が落ちるまで学校に残って練習し、恐怖心を削り落としていった。 与進中の生徒も同じ。加藤の要求に応え、演奏経験を積み増す中で、団結力を発揮し、自分なりの方法で壁を乗り越えようと努めている。「吹奏楽部は一人ひとりが主役。いかに自分を表現するか、自分で考えなければならない。それが個々の成長につながる」 表情豊かでメロディックな演奏が売り物の与進中吹奏楽部。「僕が教えたバンドは、ちょっと音が違うんです」。加藤の自信の源は、生徒たちの頑張りなのだ。
(文中敬称略)
(木、金曜日に掲載します)
|