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第8章「地域の礎」

食文化を伝える心意気
 浜松市肴町の料理店「弁一」は、大正十三年創業のしにせ。かつて周辺に魚市場が栄えたころから、現在の場所でのれんを守ってきた。三代目店主の鈴木純一(昭48卒、肴町)は平成三年から店を仕切り、地物をはじめ、全国から取り寄せる旬の素材に腕を振るう。

 「今は浜名湖のマキエビ、天竜川支流のアユ。青森や秋田のジュンサイ、伏見唐辛子もいいですね。これからの季節はハモ。京都のものと思われがちですが、舞阪や伊良湖でもいいものが捕れる」

 料理に合わせた日本酒やワインの研究も怠らない。「伝統を守ってさえいればいい、という仕事ではありません」と研究熱心。希少な食材や酒も扱う。「作り手の誇りが感じられるものを扱えることも、仕事をする上での大きな喜びです」。料理と酒に加え、器や全体の雰囲気も含め、調和のある店づくりが信条だ。

 同じ肴町のしにせ料理店として知られる「枡形」は明治二十四年、当初はてんぷら専門店として伝馬町で創業。鈴木東洋雄(昭36卒、肴町)は昭和五十年から祖父以来の店を引き継ぎ、地物にこだわった季節の味を提供する。

 フグやウナギ、スッポン、タイ、カニ、エビなど、浜名湖の恵みを中心に、年間を通して客を飽きさせない。「マダカの刺し身はこれからが最高の時期ですね。ドウマンガニも入ってくるころです」。野菜も地元産を厳選する。「季節感を楽しんでいただくことと、静かにくつろいでいただける心のおもてなしを大事にしています」

 昨年はビルを立て替えて店を一新し、地階には和風ダイニング「凡猿」をオープン。四代目の長男や枡形で経験を積んだ板前が腕を振るい、好評だ。肴町発展会の会長、浜松料理協同組合副理事長など、業界の要職も務める。

 千歳の鳥料理専門店「鳥浜」の伊達清一郎(昭32卒、千歳)もOB。戦後、佐鳴台の「鳥善」から分かれて創業した父の後を継ぎ、二十年前から店主を務める。

 鳥尽くしのコースのメーンは、三河の地鳥と野菜を味噌(みそ)で煮込むシンプルな鍋(なべ)料理。野菜は夏の彼岸ごろから玉ネギを地元篠原産、三河産、淡路産と旬に応じて使い、秋の彼岸を過ぎると磐田産の白ネギに切り替える。

 鳥はもちろん、野菜や塩など、鳥を引き立てる素材選びにこだわる。「鳥刺しには、大根では物足りない。香りのある白髪ネギやミョウガを季節ごとに使い分けます」

 「鳥の味噌鍋はそれほどなじみのない料理かもしれませんが、人づてや口コミで一度試していただくと、リピーターになって下さる方が多いですよ」。くせになる味、と評判だ。

(文中敬称略、題字は古橋広之進さん=昭和20年卒=)
(火―木曜日に掲載します)

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