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第2章 人物誌

(2003年7月31日掲載)
墨絵を取り入れ新感覚
画師
 伊藤方也氏

制作した屏風を前にした伊藤方也氏=東京都内

 新聞紙一ページの四分の一ほどのスペースに墨でかいたサンマが一匹。焼き上がったばかりに見える姿は視覚を通して食欲をいや応なしに刺激する。わきには「ああ、もうダメ」の文字と缶ビール。

 墨絵、墨文字でかかれた、この酒類会社の一連の広告はしゃれた感覚とPR効果の高さから大きな評判を呼んだ。いずれも「イラストレーターと呼ばれるのがあまり好きではないので画師と称している」という伊藤方也(62)=昭35卒=の作品だ。

 静高、東京芸大を経て広告代理店に入り、アートディレクターをしていたが、「どうしても絵をかきたい」との思いを抑えきれず退社し、欧州を旅した。「デザインの教育を受けていたので、向こうにあこがれていた」

 美術館で西洋芸術に直に接し、大きな衝撃を受けた。「西洋と日本の違いを痛感した。ミケランジェロの絵にしても神を信ずる精神的な強さ、迫力がある。生きるか、死ぬかの選択をする強さがある。日本は百万の神で、『なんとかなるさ』の風潮です。西洋が太陽なら日本は月。西洋と同じことをやっても駄目だ、と吹っ切れた」

 「何をやるか」と思案し、思い付いたのは版画。しばらくして「墨で絵をかいたらどうなるか」と考え、近くの習字の先生の元に通った。間もなく、酒類会社の広告の墨絵をかいてほしいとの依頼が寄せられた。初めは断ったが、「どうしても」との求めに折れ、筆をとったところ、好評で、約七年、かき続けた。

 「墨絵にも既成概念があると思うが、私は一切知らない。だから材料は昔ながらの墨だが、気分はモダン。新しい感覚で制作できる」。琳派に傾倒する。「尾形光琳はモダンですよ。簡略化して繊細に描く。ああした構図はほかには出てこない。面白さは西洋画以上」

 今、墨のほかに、金ぱくや柿渋を使って屏風(びょうぶ)の制作に打ち込む。しっとりとした風情の屏風にさまざまな月が浮かぶ。「長年、温めてきたライフワークです。月にはいろいろな意味があります」。作品展に向け、精力的に活動する。

 職人技を大切にする。「職人がいなくなると材料が粗雑になる。彼らはものすごい技術を持っている」

(文中敬称略)

(火、水、木曜日に掲載します。)



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