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田農の購買部は朝から忙しい。登校してきた生徒たちが昼食用の弁当を注文するためだ。のり弁当三百二十円、からあげ弁当四百円、かつ丼五百円…。生徒たちは懐具合と相談しながら、名前とクラス、品名を記入し慌ただしく教室に向かう。 発注先は校門横の「らんちてい」。平均年齢五十歳の主婦六人だけで切り盛りする仕出し弁当屋だ。昭和五十八年の創業から手作りの味にこだわり、食べ盛りの生徒たちの胃袋を支える。店長田辺幸子は「実習作業で力仕事をする田農生は、量も多めにしてあげないと」と目を細める。
購買部が再び活気づくのは、らんちていのトラックが到着する零時半すぎ。生徒たちはテーブルに積まれた弁当の山から自分の名札を探し出す。売り切れがないから安心だ。一日の注文は平均七十個。田辺は「昼までの二時間は一息つく暇もない」と額から汗をにじませる。 約三十種類のメニュー以外に、生徒たちが考案した特製メニューも多い。定番化しつつあるのが、白いご飯にかつ丼のタレをかけただけの通称「タレ弁」。「タレマヨ」はタレ弁にマヨネーズが付く。発端は練習後の野球部が毎日のように「おばちゃん、金がないよ」と泣きついたことから。百七十円は生徒にも心強い。「焼き肉五十グラム百円」「からあげ百円分」…。「おばちゃん、こんなのできない?って聞かれると、何とかしてあげようと思って」と田辺。懐の深さも、らんちていの大きな魅力だ。 おばちゃんたちの何よりの励みは、常連組だった卒業生の結婚や出産の報告。勝又孝二(平1卒)は「体を心配してくれて、キャベツとゆで卵だけのダイエットメニューばかり食べさせられた」と懐かしむ。大柄な勝又は当時から、周囲が一目置く番長的な存在だったが、「どんな生徒でも隔てなく接してくれて、おふくろのようだった」。内装設計の勝又は六年前に厨房設備を搬入するなど、今でも付き合いを続けている。 田辺は大会前の運動部員たちにはっぱをかけることも忘れない。「何でもしてあげるから頑張りなよ、っていつも言うんですが」。創業以来、野球部は夏の大会で未勝利。「甲子園とは言わない。一回戦でいいんです。勝ったら、六人で旗を作って応援に行こうと決めてます」。おばちゃんたちのささやかな夢だ。
(文中敬称略)
【注】カッコ内は卒業年。
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