東海地震の震源域が西へ広がる形で見直され、緊張が高まる湖西市。親子防災スクールに参加した子供と親も真剣だ。震源域の見直しで愛知県からの応援も期待できなくなり、自主防の住民らは「自分たちの力で生き延びる」と“自立防災”を目指す。その愛知県からは「先進地に学べ」と防災局員が視察に訪れた。県境を越えた新たな連携の在り方も課題だ。


地域実践編
湖西 白須賀小・親子防災スクール
 ▼白須賀小・親子防災スクールの内容
 緊急避難所設営訓練、仮設トイレ作り、担架作り、ロープ結び方教室、バケツリレーと煙脱出、はしご車体験、起震車体験、、炊き出し試食、「揺れ」実演、家具固定法展示、パネル展示

 <協力>白須賀小、同小PTA、湖西市・新居町消防本部、白須賀地区自治会(自主防災会)、白須賀中、湖西防災ボランティア、大学産業

震源域見直しで緊迫
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ビニールハウスでの避難所生活を体験
 ビニールハウスを利用した緊急避難所は、自立防災の一つ。「よそからの仮設住宅に期待をかけるわけにはいきませんから、手近なもので代用させたい」と湖西市の小池裕之防災監は言う。仮設トイレも広い土地を利用しての手掘り。連帯力が県内トップクラスといわれる自主防は心強い存在で、この日も多数が子供のためにと参加した。

 PTAの小池勝弘会長は「子供に連れられて来て、知らず知らずに防災を学ぶ、という形は自然で良い」とスクールを歓迎し、「家庭で防災を話題にできる」と成果に期待を寄せた。

 湖西市は西が愛知県境に接する県境の街で、白須賀小は県境まで一キロ余り。防災訓練では愛知側から湖西市に応援も来たりする間柄。防災の協力関係は、お互い気になるところだが、愛知県は大部分が東海地震の対策強化地域に指定されたことから、「お互い自分たちの地域は自分たちで守るしかない」(愛知県防災局員)のが現状だ。

 ただ、「協力できることは協力を―」と山本昌寛市長。今夏には一般向けの防災カレッジを初めて開くという愛知県側としては防災ソフトに関心が高く、「こういった親子防災スクールは大変参考になる」と防災局の石田敏文次長らは熱心に各コーナーを見て回った。

ビニールハウスが避難所

 運動場の一角には湖西市内でよく見かけるビニールハウスが設けられ、児童と父母がハウス内での避難所生活の一端を体験した。

 同市は施設園芸が盛んで、特に白須賀地区内にはセロリ、エンドウ、メロンなどを栽培するビニールハウスが点在する。

 「災害発生直後、仮設住宅が完成するまでの緊急避難所として、このビニールハウスは有効」と同市。

 白須賀自治会とPTAが3時間半かけて設営した。広さは大人約30人が寝起きできる畳約40畳分。子供たちは市防災スタッフの説明を聞いた後、震災生活を想像しながら、ハウス内での寝心地を確かめた。

 6年生の神谷佳那子さんは「少し暑かったけど、ビニールハウスが避難所になるなんて思いもしなかった」と話した。

PTAが仮設トイレ

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トイレ作りも自分たちで
 校庭北側にはPTAら13人が2時間半掛かりで準備した仮設トイレが登場した。地面に穴をあけた程度の簡単なものから、ワンタッチの最新式まで6種類。中心になって作業に当たった柴田芳信さん(47)は「穴を掘って埋める単純なタイプが実戦的。ビニール袋式は便利に見えるが、すぐにごみになる」と話した。

 市職員の説明を聞いた後、子供たちは照れながら触れたり、座ったりした。「使ったことがないタイプばかりで自信がないけど、非常時ではわがまま言えない」と6年生の小池陽平君。女子児童らも「正直恥ずかしいけど、昔はみんなこうだったんだよね」と考え直していた。

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福和教授の建物の振動実験に見入る子どもたち

「筋交い」とても重要

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親子でロープの結び方を勉強
 金属板を組んだ高さ20センチの2階建て住居模型を振動台にかけると、揺れの大きさは一定なのに、2階部分が振り子状に振幅を増していった―。親子防災スクール恒例となった福和伸夫名古屋大教授(45)の「揺れ」実演コーナー。「ああっ動いた」「うわぁ」。建物が倒壊する原理に触れ、子どもたちの目が輝いた。

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家具固定の仕方を説明
 「それじゃ、割りばしを挟んでみようか」。福和教授が模型の1階に「筋交い」を入れると、揺れに対する建物の振動が弱まった。さらに床下に車輪が付いた「免震構造」の模型が登場した。振動にほとんど動じず、児童は「車の家だ!」と思わず声を上げた。

 6年生の山本奈々さんと岡田梨甫さんは「地震で倒れやすい建物が分かった」「自分の家は古いから心配。どうすれば大丈夫か考えたい」と振り返っていた。

呼吸合わせて消火

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呼吸を合わせ、消火に当たったバケツリレー
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煙の中をハンカチを手に"脱出"する児童
 煙トンネル体験では、参加者らはハンカチで目鼻を押さえながら、煙が充満した5メートルの手作り装置内を“脱出”した。

 家族4人で参加した中島薫さん(32)は「想像以上の煙。本番だったらとても渡る自信がない」と振り返った。逆に5年の佐藤千恵さんは「煙の中は何も見えないと思ったけど、これなら何とかなりそう」と語った。

 バケツリレーでは約30人が2列になり、呼吸を合わせて消火に当たった。先頭の小学生らは次々に運ばれるバケツに大忙し。息を切らして、何度も炎を目がけて勢いよく水をかけていた。


リーダーは中学生

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縦割りグループで中学生がリーダー役
 隣接する白須賀中の有志約二十人が、活動メニューに挑戦する九つの縦割りグループの先頭に立ち、運営に協力するとともに、自ら各コーナーを体験した。

 一―三年生の水泳部員、三年生の生徒会長菅沼雄也君(14)ら。顔見知りの後輩の面倒をみることでリーダー意識をも高めてもらおうと、二十数人のグループごとに二人ずつ配置された。菅沼君らはグループ名を書いた紙を手に、ロープの結び方コーナー、煙トンネルや起震車の体験コーナーなどを次々と回った。

 グループに一年生から六年生までいたため、スムーズにメニューが消化できないのではと心配する声もあったが、後輩たちをしっかりまとめ、積極的にリードした。

 菅沼君は「負担はかからなかった」と語り、一年生山本祥子さん(12)も「時間が余ってしまうほど順調。小学生が真剣に取り組んでくれてうれしかった」と振り返る。自ら各コーナーで体験したことも貴重な教訓になったようで、二年生今泉義明君(13)は「バケツリレーの大変さを身をもって知った」、一年生森玲樹君(12)も「どうしたら地震に強い家になるかよく分かり、勉強になった」と感想を話した。

市民の防災意識を調査
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市民の意識調査をする災害ボランティア・コーディネーターの前田さん(左)
 県の災害ボランティア・コーディネーター前田展雄さん(62)=湖西市岡崎=らは、体育館にボランティアコーナーを設けた。災害ボランティアの活動状況などをパネル展示したほか、来場者にアンケートを行って防災意識を調査した。

 前田さんは兵庫県西宮市出身で、阪神淡路大震災で姉を亡くした。「家具の固定やガラスの飛散防止、家屋の耐震診断と補強の大切さが身にしみた」と、アンケートで家庭の取り組みを尋ねた。感触は、家具の固定など「意外に意識が高い」。しかし、前田さんは、自宅の転倒防止対策をやってみて一週間かかった経験から、家庭により対策の程度はまちまちとみる。

 県内に七百六十七人、市内に前田さんを含め三人がいる災害ボランティア・コーディネーターの存在については、知らないという回答が多かった。「湖西の災害ボランティアのネットワーク化は、発展途上。今後も機会をとらえて呼び掛けたい」と力を込めた。


外国人「一番の心配事」
言葉の"壁"で情報得られず

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地震の話題になると話が止まらない―という秋月キミコさんと新里ナンシーさん、杉本パトリシアさん(左から)=湖西市内
 「地震が来ると聞いて心配でしょうがない」「来たらどこへ逃げたらいいんだろう」「サイレンが鳴ると何かあったのかと怖くなる」

 湖西市在住の外国人の間で、地震は“大問題”だ。市内の雇用促進住宅に住むブラジル生まれの秋月キミコさん(32)と杉本パトリシアさん(28)、ペルー出身の新里ナンシーさん(37)は「地震が一番心配」で、よく地震の話をするという。

 特にブラジルは地震が起こらず、ブラジル人は地震体験がないため恐怖心は人一倍。「会社で地震の説明をしたらブラジルの友達の何人かは怖がって帰国してしまった」と秋月さん。地震の正しい知識と防災への予備知識の普及が必要だ。

 しかし、現状は、言葉の壁もあって厳しい。湖西国際交流協会が中心になってポルトガル語の生活ガイドブックに地震編を組み込んだり、市も防災ガイドブックを配ったり、防災知識普及に努めているものの、「在住期間の差もあったりして、人によって理解は千差万別」(同協会)。同報無線が流れて、日本語が分からず、地震の情報か心配で寝ずに一晩過ごした外国人もいたという。

 市内の人口約四万五千人に対し、外国人は約二千五百人(四月末現在)で、5%を上回る。うちブラジル人は千七百人余り。ペルー人約四百人。重要な地震情報だけでも徹底したいところだ。

 このため市は、まず地域の防災訓練へ外国人の参加を呼び掛けている。外国人従業員も含めた防災訓練を行っている企業も増えた。だが、ただでさえ分かりにくい地震の関連情報は伝達が難しく、問題は残る。

 七年前の阪神大震災をテレビで見てから「食べ物と水をいつも車に積んで、地震が来たら、そこで避難生活をする」という秋月さんのように関心が高い外国人は多い。県作成の防災メモ帳「命のパスポート」のポルトガル語版をブラジル雑貨店に置いたところ、すぐなくなるなど、こちらへの関心も高かったという。こういった関心を防災に結び付ける働き掛けが今後、必要になる。


山本昌寛・湖西市長に聞く

「自力」の防災基本に
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▼やまもと・まさひろ氏 湖西市出身。高校教師から県の教育委員会、知事部局に長期出向。県生活文化室長などを経て、湖西高校長から10年前に市長に転進し、現在3期目。

 湖西市は東海地震対策では震源域見直しに注目が集まり、今後は愛知県方面からの応援が期待できない―と話題になっている。防災対策に積極的に取り組む山本昌寛市長(66)に、現在の課題を聞いた。

     

 ―地震と防災に対する市民の認識をどうとらえていますか。

 「東海地震の震源域が西へ広がって、この浜名湖の下の辺りまできた、と聞いている。緊張感は非常に高まっている。それに加えて最近は鳳来寺辺り(愛知県東部)で小さな地震が続いて、この辺も揺れるものだから不気味だ。地震対策は徹底しなければならない、と再認識している」

 ―どんな対策に取り組んでいるのですか。

 「重要施策に入れて、予算は毎年一億五千万円前後をつぎ込んでいる。公共施設では小中学校の校舎の耐震化を進めて完了し、窓ガラスへの飛散防止フィルム張りも終わった。今年からは体育館の耐震化にも取り組んでいて、補強ではなく、建て替える計画だ。水は給水タンクを非常用に使えるので、市民一人三リットルを確保できている」

 ―一般住宅などが問題ですね。

 「そうだ。昭和五十六年以前の古い住宅が約七千五百軒あるが、耐震診断したのが二百三十軒。まだ3%。今年は幸い、この二カ月で七十軒の申し込みが来ているので、何とか10%には持っていきたい。あとは診断後の補強の問題。平均で百万円から百五十万円はかかるというから、財政規模が小さな市としては県の援助を要請したい」

 ―自主防など地域の防災力は、かなり高いようですが。

 「二年前に、うちの市を会場に、県の防災訓練が開かれた。防災船『希望』が豊橋港に着いたり、愛知県警から応援が来たり、広域的にやった印象が強かった。これを機に雰囲気が盛り上がった。市としてはリーダー養成に力を入れている。市職員は三百五十人ほどだから、住民には自分の命と財産は自分で守るように呼び掛けている」

 ―企業の街としては。

 「常に連携を考えている。企業は防災訓練をやってくれるし、消防団員の社員は、何かあればすぐ地域に帰してくれる。防災だけでなく、環境問題などもそうだが、ふだんから協力関係を築いておくことが肝心だ」

 ―愛知県からの応援が期待できないことなど、現在の問題点は何ですか。

 「応援は初めから多くは期待してはいけない、と考えている。個人に自分は自分で守るように言うのと同じ。行政も、想定される課題は素早く取り組み自力でやるつもりだ。もちろん裾野市と応援協定は結んだりしているが、市は市で頑張る。ほかに外国人への情報伝達など課題も多い。外国人とはごみの出し方とかと同じで、ふだんからの付き合いが大切だと思う。自主防の訓練にはぜひ参加してほしい」