▼しまむら ひでき氏
1941年、東京都生まれ。東大理学部卒。北海道大海底地震観測施設長を経て、同大理学系研究科教授、同大地震火山研究観測センター長。著書に「地震は妖怪 騙された学者たち」(講談社)、「地震列島との共生」(岩波書店)「地震と火山の島国−極北アイスランドで考えたこと」(岩波ジュニア新書)など。
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■ 島村 英紀
2001/09/02
■地震は人を殺さない?
二十四万人、一説には七十万人もの犠牲者を生んだ中国の唐山地震(一九七五年)と阪神大震災の両方を地震直後に訪れた地球科学者がいる。といっても、唐山地震ではあまりの被害の大きさに当局が外国人の立ち入りを十年間も禁止したから、その科学者は日本人ではない。中国国家地震局のT先生である。
T先生が阪神大震災を見た印象は、がれきの山になってしまった家はあるが、ちゃんと残っている家も意外にたくさんある、というものだった。唐山地震では、まるで爆撃に遭ったように、すべての家がなぎ倒されたから、その違いが目立ったのだろう。
神戸大学には、犠牲になった同大学の学生の慰霊碑が建っていて、三十九名の名前が刻まれている。
このうち三十七名は、下宿がつぶれて死んだ。自宅から通っていた学生に比べて、下宿生のほうがはるかに犠牲者が多かった。気の毒なことに、この下宿生たちは自宅生たちよりも弱い建物に暮らしていたのである。
日本の家は、昔よりもずっと地震に強くなってきている。しかし古い家も多い。阪神大震災では、これらの地震に弱い家が倒れて亡くなった人が圧倒的に多かった。統計によれば死者の八割以上が老朽木造家屋の下敷きになったものだ。学生下宿には限らない。
つまり、大地震は、弱い家に住み続けなければならない人々を選択的に襲うものなのである。
もし、学生の安下宿のような老朽木造家屋が新しい家に建て替えられていたり、せめて耐震の補強がされていたら、阪神大震災の犠牲者は五分の一以下に抑えられた可能性があった。
唐山の家屋は木造ではなかった。しかしれんがや石を積んで作った中国の一般住宅や商店は地震にはきわめて弱い。これらの家がもし日本の近頃の家のような強さを持っていたら、唐山地震の犠牲者は、ずっと少なくてすんだに違いない。
私は地球科学者だが、地震の「弁護」をするわけではない。しかし、地震そのものはめったに人を殺さない。人間が作った構造物が人を殺すことのほうが、はるかに多いのである。
(「大地の不思議」は今回で終わります)
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