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「他人事ではいられない!どうなる裁判員制度」    インタビュー (04/02/15)

 「他人事ではいられない! どうなる裁判員制度」。第二回では、元最高裁判事の園部逸夫氏、元札幌地検検事正の小林永和氏、県弁護士会長の河村正史氏に、政府の司法制度改革推進本部が作成した骨格案に対する評価をうかがいました。裁判官三人、裁判員六人という人数構成や、裁判員制度そのものの意義について、熱い主張が繰り広げられました。


 元最高裁判事
園部 逸夫氏
(元最高裁判事)
園部 逸夫氏

 そのべ・いつお氏 京都大助教授から判事に転じ、最高裁上席調査官などを歴任。筑波大教授などを経て、平成元年、最高裁判事に就任。同十一年に定年退官し、弁護士登録。七十四歳。
 裁判員は「社外監査役」

―裁判官三人、裁判員六人という政府骨格案をどう評価しますか。

「裁判官三人、裁判員四人ぐらいで始めるのが適当だと思う。裁判員は一種の社外監査役のようなもの。裁判官はもともと襟を正して裁判を行っているが、社会常識や物の見方で多少欠けているところを、社会的な経験の豊富な裁判員が協力して助けるというのが制度の趣旨だろう。裁判に市民が入ることが重要であり、ただ数を増やす方向に行くのは心配だ」

─裁判員の数が多いとどんな問題が考えられるのでしょうか。

「法律の解釈や運用には長い歴史があり、判例の重みもある。裁判員が入って判例や法律の規定を根本から議論するのは大変だ。裁判員制度を白紙に戻すのであれば、陪審制度の方がやりやすいのではないか。陪審員は有罪か無罪かの事実を認定するだけで、法律の解釈適用や量刑は裁判官に任せられる。素人でも判断しやすく、えん罪を防ぐのには良いと思う。専門裁判員という制度も考えられる」

─国民の司法参加を否定しているわけではないということですね。裁判員制度は憲法違反ではないかという意見についてはどう思いますか。

「憲法は解釈のしようがあるので一概には言えないが、裁判員が裁判官を補助するという形であれば憲法違反にはならないだろう。ただし、裁判員が裁判官を圧迫して、実質的に裁判を左右する恐れがあれば問題だ。裁判員は専門的な判断はプロの裁判官に任せて、上手に共同作業をしてもらいたい」

―裁判員制度の導入で裁判はどのように変わると思いますか。

「紋切り型の判決では裁判員制度を導入する意味がない。裁判員の考えを取り入れ、素人にも分かりやすく、裁判官の人格がより前面に出た判決になるだろう」

―裁判員制度は根付くと思いますか。

「まずは啓もう運動が大切。米国でも陪審員に呼ばれるのは一生に一度か二度。その時は何をおいても協力するということを、国民に十分納得してもらう必要がある。何よりもなぜ裁判員制度を導入するのか、政府は司法改革の理念から積極的に説明責任を果たすと同時に、綿密な制度改革をしなければならない。海外の陪審制度には五十年、百年の歴史がある。裁判員制度を定着させるには、国民が本気になってやるつもりがあるかどうかが大切だ」


 元札幌地検検事正
小林 永和氏
(元札幌地検検事正)
小林 永和氏

 こばやし・ひさと氏 神戸、東京、名古屋、仙台などの地検、高検に勤務。公安調査庁調査第二部長、那覇地検検事正を経て、平成六年から八年まで札幌地検検事正。現在、丸の内公証役場公証人。六十七歳。
 誤判、えん罪増える恐れ

―裁判員制度の政府骨格案をどう思いますか。

「政府が導入しようとしている裁判員制度には到底納得できない。陪審制や参審制を採用している諸外国は、憲法でその制度を明記しているが、日本の憲法では一般国民が直接裁判に関与する制度について全く触れていない。これはプロの裁判官が裁判を行うことを当然の前提としていると解釈すべきだ。運用面でも欠点が多い」

―どのような点が問題なのですか。

「裁判員が現場写真や解剖鑑定書など、膨大な書類に目を通す時間があるのか。いくら裁判官と検察官、弁護士が準備手続きで争点を整理すると言っても、基本的な前提を理解しておかなければ、被告人や証人が真実を述べているかどうかは判断できない。証拠の判断は専門家の裁判官でも難しい。否認事件ともなれば、失礼ながら一般市民に正しい判断を期待するのは相当無理があり、誤判やえん罪のリスクが大きい」

―誤判やえん罪が増えるという根拠はあるのですか。

「日本で昭和三年から十八年まで行われた陪審裁判では四百八十四件のうち、16・7%に当たる八十一件が無罪になった。米国でも近年の陪審裁判の無罪率は約33%だが、もし裁判官が審理したら無罪率は半分になると言われている。今の日本では検察官が起訴する事件を厳選し、無罪の疑いがある事件は起訴しないので、無罪は1%に満たない。無罪が増えれば真犯人を野に放つこともあり、治安の乱れが心配だ」

―国民の負担が大きいという批判もあります。

「国が多忙な人々を裁判員に呼び出して、評議内容を他に漏らすと懲役刑が科せられるというのはひどい話だ。また、裁判員制度を実施するためには、宣伝啓もう、候補者名簿の作成や事務にかかる人件費、裁判員の旅費や日当、宿泊費、全国の裁判所の法廷改造費など、ばく大な費用がかかる。それよりも犯罪被害者の救済にお金をかけた方がいい」

―裁判員制度は根付くと思いますか。

「実施後二、三年で国民に不満が出てきて、次々におかしな裁判が続き、五、六年もすればやっぱり駄目だということが分かるだろう。裁判を迅速にするためには、裁判官や検察官を大幅に増員する方が良い。また、今は弁護士が裁判官の指揮を無視して裁判を長引かせるケースもある。もっと裁判長の訴訟指揮権限を強化すべきだ」


 県弁護士会長
河村 正史氏
(県弁護士会長)
河村 正史氏

 かわむら・まさし氏 昭和五十二年から県弁護士会に所属し、副会長、静岡支部幹事長などを経て、平成十五年四月から会長。再審無罪となった島田事件の弁護団メンバー。日弁連理事、関東弁護士会連合会常務理事。五十六歳。
 裁判に健全な常識反映

―なぜ今、裁判員制度の導入が求められるのでしょうか。

「これまでの裁判が、えん罪や誤判を生み出してきた原因には、職業裁判官の慣れや非常識があった。警察や検察の調書にも問題が多い。裁判に常識的な民意を反映し、これらを是正していく必要がある」

―政府案をどう評価しますか。

「裁判員が実質的に関与できるよう、理想的には裁判員はもっと増やすべきだ。裁判官二人、裁判員七人くらいが適当ではないか。評決は、できる限り評議を尽くすという意味で、全体の三分の二以上、死刑の場合は全員一致が望ましい。また裁判員が証拠調べをしやすくするため、被疑者の取り調べ過程の録画を義務づけるべきだ。裁判が長引くケースの中には、調書の任意性が問題になることが多く、審理の迅速化にも役立つはずだ」

―市民参加型の裁判は感情が影響し、無罪や死刑が増えるという指摘もありますが。

「国民を裁判に関与させると誤判やえん罪が多くなるというのは、国民をばかにした議論だ。事実認定の能力は、裁判官と国民の間に差はない。ただし、制度が導入され、量刑の方法などが一般に明らかになってくれば、死刑に対する国民の感覚は変わるだろう。終身刑のない現在の日本の刑罰では無期懲役なら途中で出所してくることになるわけで、二度と出てこられないようにするなら死刑にするしかない」

―昭和初期に実施された陪審員制度は根付きませんでした。

「当時の陪審員制度が必ずしも成功しなかったのは、陪審が被告人の請求による任意のもので、いつでも請求を取り下げることができるなど、実質的な内容に乏しい制度になっていたから。国民参加に問題があったのではない」

―裁判員制度の違憲性を主張する人もいます。

「裁判員制度の目的は国民の健全な常識を裁判に反映させること。憲法の大原則である民主主義に基づく制度だ。また憲法三七条は被告人が裁判所で公開裁判を受ける権利を保証しているが、この『裁判所』は司法機能を果たす機関と解釈されるべきで、何ら違憲性はない」

―制度は根付くでしょうか。

「日本人が他人に盲従しやすく、自分の意見を述べられないなどというのは単なる偏見に過ぎない。確かに制度に対する理解が進んでいない一面はあり、当初は戸惑いもあるだろうが、十分な啓発を行い、制度を育てていかなくてはならない。特に学校教育の中で制度の意義を教えていくことが大切だ」



■次回(22日=日曜日)も「他人事ではいられない!どうなる裁判員制度」インタビュー 今回のインタビューでは、裁判員制度の必要性についても、三者三様のとらえ方があることが分かりました。次回のトークバトルも引き続き、「他人事ではいられない! どうなる裁判員制度」です。裁判員となる国民にとって最も切実な「義務と罰則」を主なテーマとし、学者や市民団体の代表者に意見をうかがいます。


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