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「驚き?妥当?発明対価200億円」   インタビュー (04/03/07)

 企業で研究に従事した研究者が元の勤務先を相手取り、勤務中の発明の対価を求める訴訟が相次いでいます。企業側に約二百億円の支払いを命じた青色発光ダイオード(LED)特許訴訟の一審判決を筆頭に、億単位の対価を認める判決が続き、特許法の改正問題も含め、さまざまな論議を巻き起こしています。「科学技術立国」を目指す日本の企業は、研究者をどう処遇すべきなのでしょうか。第一回は、異なる見解を持つ二人の元研究者に意見を聞きます。


 元日立金属研究員
 窒素磁石発明対価訴訟原告
岩田 雅夫さん
(元日立金属研究員
   窒素磁石発明対価訴訟原告)
岩田 雅夫さん
いわた・まさお氏  昭和45年、日立金属入社。研究部で磁性材料の研究にあたる。同58年に窒素磁石を発明、特許取得。退職後の一昨年7月、日立金属を相手に発明対価約9000万円を求める訴訟を起こす。一審は同社に約1200万円の支払いを命じたが、発明者の貢献度を1割とした判断を不服とし控訴。58歳。

研究能力の適正な評価望む

―青色LED訴訟の判決をどう評価していますか。

 「発明者の貢献度を50%と認定した点を高く評価したい。発明がなされるまでの経緯を原告の中村修二さんの著書や報道から知る限り、さらに高い貢献度が認められてもおかしくない事例と思うが、それでもこれまでの判例から見れば格段に高い。一方で金額については、特許権が切れる二〇一〇年までの利益を“推定”している点をはじめとして、議論の余地が残されたように思う」

―日本企業の研究者処遇をどう思いますか。

 「独創的な研究者は、常識や慣習にとらわれず自分の信念を貫くが、調和を重んじる日本企業の中では変わり者と見られ、疎まれがち。最近は日本でも能力主義が掲げられるが、研究者が研究能力だけで純粋に評価されているかと言えばそうではない。むしろ自分を曲げても上司を立てられないと評価は低い。優秀な研究者は必然的に冷遇されるとも言える」

―ご自分の経験はどうですか。

 「昭和五十八年に他社が世界最強の磁石を開発した。会社からはそれを確認する研究を命じられたが、他社を追随しても仕方がないと思い、学生時代から温めていたアイデアをもとに仕事の傍ら独自に研究し、現在は携帯電話などに広く用いられている強力な『窒素磁石』を発明した。発明は自社内では軽視されたが、その後他社が製品化し、会社は一億円以上の特許使用料を得た。しかし、私自身は異動で研究から外されてまったく蚊帳の外。発明者として尊重されなかったという思いもあり、一昨年訴訟を起こした」

―訴訟の多発は、社会的損失だという声もあります。

 「特許法改正が進んでいるが、裁判に訴える道は残しておかなければいけない。米国のように契約意識が強く、転職も日常的な国とは違い、日本には従業員が企業と対等に話し合える土壌はない。結局は企業の言いなりになる。対価請求権を法律上認めておくことで、企業は訴訟を回避するために、研究者を適正に評価することを努力目標でなく、より切実な課題として真剣にとらえるようになる」

―適正な評価が行われれば訴訟はなくせるということでしょうか。

 「企業が研究者を尊重し、制度を整えて適正に評価しさえすれば、訴訟は沈静化する。訴訟を起こすのは個人にとって、大変なリスクを伴うこと。訴訟となっているケースを見れば、単に報奨金が少なかったからというよりは、適正に評価されなかったことへの不満が大きい。研究者の処遇に対して問題を提起しているということだ」

―企業は立ち行かなくなるという悲鳴も聞こえます。

 「金額ばかりに目を奪われず、例えば日亜化学に中村さんが就職していなければ、果たして今の日亜化学があり得たかどうか考えてみるべき。また、この発明がもし外国でなされたとしたら、そこから生まれる利益はすべて外国に帰したはず。訴訟の道を閉ざし、日本で正当な評価を得る機会を奪えば、優秀な研究者は海外に逃げ、優秀な特許も同時に逃がしてしまうことになる。日本全体の利益を守るために何をすべきかを真剣に考えなくてはならない」

―職務発明に対する補償、報奨の仕組みはどうあるべきでしょうか。

 「実績主義にすべきだ。現在多くの企業では、特許の出願時、登録時などに一律に補償金を出す制度を持っているところが多いが、特許は最初の段階では真価が分からない。日本の特許は出願件数がいたずらに多く、内容の充実には疑問もある。特許が実際に利益を生んだ段階で、実績に応じて対価を支払うようにすれば、研究者も本当に優れた特許を生み出そうという気になる」


 静岡理工科大物質科学科教授
 ノースカロライナ州立大併任教授
志村 史夫さん
(静岡理工科大物質科学科教授
ノースカロライナ州立大併任教授)
志村 史夫さん
しむら・ふみお氏  日本電気中央研究所、米国モンサント・セントルイス研究所、ノースカロライナ州立大に勤務し、半導体物性、電子材料の先端研究に従事。平成5年から現職。近年は文明と科学に関する考察を深める。近著に「文科系のための科学・技術入門」(ちくま新書)など。55歳。

会社への貢献は当然の職務

―二百億円の判決をどう受け止めましたか。

 「ばかげているというか、あぜんとした。確かに青色発光ダイオードの実用化における中村氏の功績は大きいが、この分野の研究ではその前段階に何人もの研究者の貢献があり、一人でやったと言える発明などあり得ない。また企業では、商品化し、実際に売って利益を上げるまでに大勢の人間がかかわる。さらに製品化には工程技術も極めて重要だ。対価の算出は不可能に近い」

―対価を求めるのはおかしいということでしょうか。

 「法的な根拠はあっても、企業に研究者として勤めた経験から言って、対価を求めるというセンスは理解できない。日本企業の研究者は基本的には終身雇用。給料や厚生が保証され、長年勤めて目立った成果がなくても給料を返せとは言われない。一方、ばく大な利益につながるような仕事をする人は一握り。企業はそれだけのリスクを負っている。うまくいった時だけ対価をよこせというのはおかしいのではないか」

―特許法改正が進んでいます。政府案をどう評価しますか。

 「三五条は撤廃すべきだと思う。科学や技術の実態をよく知らない人たちによる裁判で、勝手に判定されたら大変だ。職務発明と対価の問題は本来裁判にはなじまず、企業と社員の自主性に任せるべき。企業は機密保持のためすべてを公開できるわけではないから、裁判で歯切れが悪くなるのも当たり前で、企業には不利だ」

―企業での研究者の立場が報われないと感じたことは。

 「半導体分野の研究に携わり、いくつかの特許などによって会社の利益には十分貢献してきたつもりだが、それは自分の職務として当然。研究論文が外部からも評価されるのはうれしかったし、社長賞などをもらったりして満足してきた。大金は手に入らなくても、存分に好きな研究ができる環境と、名誉によって報われてきた」

―その後、渡米したのはなぜですか。

 「企業の研究所にいたころ、IBMの参入に対抗するため、当時の通産省の音頭で国内コンピューターメーカー五社が参加して作った半導体基礎研究のプロジェクトチームに参加したのがきっかけ。この時の研究が注目されて、米国セントルイスの民間研究所に引っ張られた。しばらくして同じく米国の州立大へ移ることになったが、いずれにしても、日本の企業にいた時の経験なしにはその後はなかったと深く感謝している」

―米国と日本で研究者の処遇は違いますか。

 「一般に米国では研究者は厚遇されているというイメージがあるが、実際は厳しい。確かに独立してベンチャー企業を起こすなどして、巨額の富を得る人は一部にいる。しかし企業の研究者として雇われている限り、ばく大な対価を得ることなどあり得ない。実績主義で頻繁に契約更新があり、成果によって給料が変わる。いい研究をしなくては研究費も十分付かない」

―日本の研究者は冷遇されてきたと言われますが。

 「研究者はそもそも、設備と時間と給料を与えられ、やりたい研究ができるという点で、現場で実際に物づくりに従事している人に比べれば優遇されていると思う。関連の裁判でよく『会社の反対を押し切って研究した』という主張があるが、それは珍しいことではない。本当に独創的な研究は、なかなか理解されない。自分も研究所長に、七割は社の意思に沿う研究をするとして、三割はアンダーグラウンドでやれと言われた。わたしは昔の人間なのかもしれないが、研究者は芸術家のようなもので、研究の原動力は対価などではなく、創造の喜びであるはずだ」

 職務発明規定 特許法三五条は、企業の従業者が職務の範囲内で行った発明について、従業者は企業から「相当の対価」を受ける権利があると定めている。一連の特許訴訟では、この「相当の対価」をどう算定すべきかが焦点となっている。米国では特許法に職務発明の規定はなく、発明者から企業への権利譲渡や使用については、個別契約にゆだねられている。一方、ドイツでは対価算定に公的ガイドラインを定めているが、算定が煩雑すぎるとの批判もある。三五条の扱いは今回の特許法改正の目玉。今国会に提出された政府案は、対価決定の際、企業に発明者の意見を十分反映させるよう求めた上で、手続きに合理性がなければ裁判所が対価を決定するという折衷的な内容になっている。



■次回(14日=日曜日)も「驚き?妥当?発明対価200億円」インタビュー
 相次ぐ特許訴訟の高額判決をあなたはどう思いますか。インタビューでは「研究者の正当な評価につながる」という期待感に対し、「企業の経営リスクが考慮されていない」という批判もありました。次回は、特許法の改正問題などを中心に、全国の企業約200社が加盟する日本知的財産協会に話を聞きます。また、職務発明に対する県内企業の補償、報奨金制度の概要も紹介します。


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