|
|
| 「どこまで認める?生殖補助医療」 インタビュー(1) (04/04/18) |
| がんのため子宮を摘出しながら、子供を望んでいたタレントの向井亜紀さんが、米国での代理母出産に成功したと会見したのは今年一月。生殖補助医療の進歩により、不妊に悩む人が子供を得る可能性は広がっています。一方で、生殖補助医療には夫婦以外の第三者が介在することなどから、倫理的な課題や、生まれた子供の福祉をめぐる問題も顕在化しています。生殖補助医療はどこまで認められるべきなのか。三人の当事者の声を聞きました。 |
| |||||||||||||
―向井さんの代理母出産をどう感じましたか。 「病気をし、苦しい時期をくぐり抜けて、代理母出産という決断をし、やりとげたのはすごいことだと思います。そこまで自分の気持ちを持っていくのは生半可なことではありません。また事実を公表することで、これまで当事者の顔が見えなかった代理母出産について、認知を広げたとも言えると思います」 ―代理母出産という手段をどう思いますか。 「国内では法的に規制される方向と聞きますが、生まれながらに子宮がなかったり、病気で摘出してしまったりした人が、子供を得るための手段は残しておくべきではないでしょうか。当事者の子供を望む気持ちを尊重すべきです。ただ、まだまだ世間の偏見は強いと思うし、生まれてきた子供にどう事実を伝えていくかなど、考えるべき問題も多い」 ―代理母出産という選択を考えますか。 「それはまた別問題です。経済的な問題もありますし、自分がそこまで強く子供を望むかどうかも分からない。パートナーがどう思うかということもあります。会のメンバーの中にも、共感はできるけれど、自分が代理母出産を選ぶかどうかは分からない、という声が多かったと思います」 ―ご自身はどんな体験を持っていますか。 「結婚二年目くらいの時に、子宮がん検診に行って、子宮内膜症と診断されました。治療を受けた後、子供がほしければ、再発しないうちに体外受精をした方がいいと勧められました。病気については自覚症状もなく、すべてが突然のことだったので、最初はなかなか事態を切実に受け止められませんでしたね」 ―治療について迷いましたか。 「今でもどこまでやるか、決心がつきかねています。不妊治療は経済的にも時間的にも非常に負担が重く、犠牲は大きい。保険がきかないので、体外受精をやるなら少なくとも二、三回分の経費として百万単位の費用を用意しなくてはいけません。しかも絶対に子供が持てるという保証はどこにもない。一方で、不妊治療の可能性はどんどん広がっていて、やらずに後悔しないかという思いもあります」 ―当事者にとって最も大きな悩みは何でしょう。 「日本の社会は子供のある家庭を標準的な家庭としてとらえ、つくられています。子供を産まないと一人前でないという考えも根強い。子供を持ちたくても持てない家庭もあるということを踏まえて、子供のいない人を特別視しない社会になってほしい。少子化対策や年金制度改革の議論の中で、子供のいない世帯が社会に貢献していないかのように言われることがあるのは、あまりに心ないことです」 |
| |||||||||||||
―向井亜紀さんの代理母出産や関連の報道をどう受け止めましたか。 「がんによる子宮の摘出が報道され、代理母出産も公にせざるを得なかったことは分かります。でも、あそこまでセンセーショナルに、すべてを公表したことには疑問も感じました。子供が誕生する時、一番に考えるべきなのは、言うまでもなく子供のこと。向井さんの子供たちは、事実を早くから知ることになるでしょう。どんな影響があるか心配になります」 ―代理母出産についてはどう考えますか。 「基本的には賛成できません。望めば望むだけ技術があり、おなかも含めて人のものを借りても子供を持つことが可能な時代だからこそ、立ち止まって考えるべき。代理母出産は、最悪の場合は死んでしまうことさえある妊娠、出産のリスクを他人に負わせることです。また、女性が十カ月の妊娠期間を抜きに子供を得ることでもある。法律で認める、認めない以前に、一人の人間としての倫理観が問われていると思います」 ―代理母出産によってしか子供を得られない人もいます。 「そういう選択をした人を責めることはできません。ただ子供を得るのに、必ずしも産むことにこだわる必要はないでしょう。養子もある。遺伝子を残したいというのは親のエゴではないかという気もしますし、本当にそこまでして子供を得たいのかよく考えた方がいいと思います」 ―ご自身にも不妊治療の経験がありますね。 「子宮内膜症で手術を受け、再発しないうちに卵子を採取して、人工授精することを勧められました。排卵誘発剤の副作用がひどく、中断した時期もありましたが、二年間の治療で昨年十二月、妊娠しました。でももし成功しなくても、次のステップとして体外受精を一度だけ試して、今年限りで治療をやめようと決めていました」 ―なぜ治療をやめようと考えていたのですか。 「不妊治療はたくさんの薬を使います。体外受精をすれば、ホルモン投与などでがんのリスクも増す。子供が生まれても、近い将来自分が病気になったりしたらどうか。子供が幸せになるためには、産むだけでなく、育てなくてはなりません。そこが危うくなる可能性があるのに、技術に頼って、何が何でも産みたいとは思えなくなったのです」 ―不妊治療はどこまで認められるべきだと思いますか。 「個人的にはやはり、精子、卵子の提供、代理母出産など第三者がかかわる治療をしたいとは思いません。ただし不妊治療は本人が納得いくまでやることが大事。これだけやってだめだったのだから、自分には他の使命がある、子供を産む以外の社会貢献の道がある、と思えるまでやらないときっと後悔もあります。そのために、国は不妊治療の保険適用を認めるべきです。酔って階段から落ちてけがをしても保険が適用されるのに、まったく個人に非のない不妊という病気が除外されるのは変です」 |
| |||||||||||||
―向井さんの代理母出産、報道についてどんな感想を持ちましたか。 「向井さんというタレントが、会見やドキュメンタリーといったドラマチックな形で代理母出産を見せることによって、議論が尽くされるべき点があいまいになってしまうのではないか、という不安を感じました。理解が中途半端なまま、世論が感情的に盛り上がるのは怖いことです」 ―代理母出産の何が問題でしょうか。 「まず、代理母への身体的、精神的リスクが大きいことです。精神面では、十カ月を子供と過ごすことによって子供に愛着が生じ、引き渡しを拒否する例も多く報告されています。さらに生まれてくる子供にとって、二人の母親がいるということがどんな影響を及ぼすのか。アイデンティティーの確立に問題が生じない保証はありません。それから、代理母出産に限らずですが、不妊治療の技術が進めば進むほど、当事者が産むことをあきらめられなくなる側面もある。手段があるだけ周囲のプレッシャーも大きくなり、当事者はますます追いつめられます」 ―国内でも、自主規制されてきた代理母出産が行われたことが明らかになっています。 「代理母出産に賛成する日本の医師は、身内などによる無償の代理母を主張していますが、米国のように、無関係の第三者に報酬を支払って行うよりさらに問題が多い。身内の中に依頼者と代理母がいるというのは、大変なかっとうを抱え、取り返しの付かない禍根を残す心配があります。子供の立場もより複雑になるでしょう」 ―ご自身の治療体験はどうでしたか。 「三十一歳で二年ほど受けた治療をやめ、三十代前半で産まないと宣言しました。期待してはずれ、また期待してはずれ、ということを繰り返していくのは本当に苦しい体験。自分の体を否定したくなります。治療自体の苦しさがあってやめましたが、終わった後の方が悩みは大きかったですね。一番つらかったのは、『自分は産めなくてもいい』と認めていく過程でした」 ―当事者のために、何が必要でしょうか。 「不妊は決して個人だけの問題ではありません。子供がいないことが一生不幸だという思い込みや、子供がいない人は社会に貢献していないというような偏見が、当事者をますます苦しめることになる。たとえ産んでも不妊のつらさが解消されない人もいる。二人目を期待されるのが苦しかったり、自身の体験を話せなかったり。社会が変われば、当事者はもっと楽になるはずです」 ―不妊治療に助成金を出す自治体も増えているようです。 「少子化対策の一環として不妊治療を考えることには違和感を覚えます。目的が『子供を増やすこと』にあると、治療を受けない人に圧力がかかる恐れもある。それに、不妊治療の成功率は低い。一時的に助成などが行われても、それほど効果がなければ取りやめになる可能性もあります」 |
![]() |
|
■次回(4月25日=日曜日)は「どこまで認める?生殖補助医療」インタビュー(2) 向井さんの行動に共感する声、子供への影響を心配する声、高度な生殖補助医療がかえって当事者を苦しめるという声―。治療経験のある方々の声をどう受け止めましたか。次回も「どこまで認める?生殖補助医療」インタビューです。生殖補助医療に携わる医師の立場から、国が進めている不妊治療の実施基準作りに対する意見も含め、現状や課題を語っていただきます。 |