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「どこまで認める?生殖補助医療」   インタビュー(2)  (04/04/25)

 日本には今のところ、生殖補助医療を規制する法律はありません。これまでは医師の自主規制の下、人工授精や夫婦の卵子、精子を用いた体外受精などが限定的に行われてきました。厚労省の部会は昨年四月、夫婦以外の第三者の精子、卵子、胚(はい)を使った不妊治療を条件付きで認め、代理出産や精子、卵子の売買を罰則付きで禁止するなどとした報告書をまとめましたが、「子供を産む権利を国が規制するのはおかしい」などの反発も根強く、ルール作りは難航しています。第二回は現場の医師に、基準作りの動向をどう見るかなど、意見を聞きました。


代理出産に反対
慶大医学部教授 吉村 泰典さん
慶大医学部教授 吉村 泰典さん

よしむら・やすのり氏 慶大医学部卒。藤田保健衛生大講師、杏林大助教授などを経て、平成7年から現職。日本産科婦人科学会代議員、日本不妊学会理事、厚生科学審議会委員などを務める。専門は生殖生理学、不妊症学、臨床内分泌学。
現状ではリスク大きい

 ―生殖補助医療の実施基準を定める上で、議論のポイントになるのはどんな点でしょうか。

 「重要な点は三つある。まず代理出産が許されるかどうか。次に精子、卵子、胚の提供にあたって兄弟姉妹など近親者からの提供を認めるべきかどうか。最後に一番難しい問題として、夫婦以外の第三者がかかわる医療について、子供の出自を認める権利をどう考えていくかだ」

 ―代理出産についてどう考えますか。

 「反対する。妊娠、出産によって死亡する例は現在では少ないが、それでも約千二百人に一人は亡くなる。出産の影響で、その後子供を産むことができなくなる女性もいる。そうしたリスクを他人に負わせるのは、問題が大きすぎる

 ―兄弟姉妹間の精子、卵子、胚の提供についてはどうですか。

 「優性思想を排除するためにも、提供にあたっては基本的に匿名性を守るべきだ。しかし一方で、肉親からの提供に反対できない面もある。精子提供はともかく、卵子提供は排卵誘発剤や麻酔を使い、十日以上も拘束されるなど提供者の負担は大きく、ボランティアでやるのは肉親しかいないのではないか」

 ―胚提供についてはどうでしょうか。

 「胚については、現実的に提供者はほとんどいないだろう。例えば再生医療分野で注目される胚性幹細胞(ES細胞)は、不妊治療の際に使われなかった受精卵から作るが、目的が研究のためであっても、提供には抵抗感が強い。まして実際に子供が生まれるとなれば、提供はより難しい」

 ―代理出産は将来的にも認められるべきでないと考えますか。

 「代理母に対するリスクが軽減されれば、容認されていく可能性もある。しかし現状ではリスクが大きい上、親子法など社会的基盤が整備されておらず、事実だけが先行すれば混乱する。ただし生殖補助医療をどこまで行うかは主として倫理的な問題としてとらえるべきで、そうした医療行為を刑事罰の対象にするのは筋違いだ」

 ―子供の出自を知る権利についてはどんな見解ですか。

 「子供が父母を知る権利は尊重されるべきだが、それだけでは語り尽くせない面がある。例えばスウェーデンではAID(精子提供による人工授精)が実施されて十八年たち、子供が望めば遺伝上の親を知ることができるようになったが、確認に来た例はまだ一件もないと聞く」

 ―理由をどう分析しますか。

 「親が事実を子供に知らせていないということだ。日本のAIDはこれまで匿名で提供が行われてきたが、提供を受けた親のうち、子供への告知を『絶対にしない』という人が八割を占めるという調査もある。実の親による養育が適当でない場合に適用される特別養子縁組制度で、戸籍上は養子縁組が分からないようになっているのを見ても、真実を知らせない方が子供のためにいいこともあるということだ」

 ―出自を知る権利を考える時に、何が大事でしょうか。

 「子供の知る権利と提供者のプライバシーのバランスをどう考えるかだ。情報公開はある程度提供者のプライバシーを無視しないとできない。しかし提供者のプライバシーが守られなくては、提供が倦厭(けんえん)されることも考えられる。逆に提供者に何らかの意図があり、家族関係に介入されたりしても恐ろしい。難しい要素が多く、どうすべきなのか結論が出せない」

 ―生殖補助医療を行う上で最も尊重されるべきことは何でしょう。

 「生殖補助医療の可能性が広がれば広がるほど、親も医者も、生まれさえすればいいという意識で臨んではいけない。親が自己決定に基づいて受けた医療でも、これから生まれる子供の合意を得ることはできない。生殖補助医療によって生まれる子供は六十人に一人と言われ、決して少なくない。これらの子供を特別視せず、どうしたらうまく育てることができるか、どうしたら幸せにできるかを一番に考えていかなくてはならない


代理出産に賛成
諏訪マタニティークリニック院長 根津 八紘さん
諏訪マタニティークリニック院長
 根津 八紘 さん

ねつ・やひろ氏 信州大医学部卒。昭和51年、長野県諏訪市で開業。平成10年、当時の会告に反し、非配偶者間体外受精を行ったとして、日本産科婦人科学会を除名に。その後も2例の代理出産を報告、議論の的になった。今年2月、学会に復帰した。
「相互扶助」尊重すべき

 ―これまでに二例の代理出産など、議論の分かれる生殖補助医療を実施してきていますね。

 「人間がそもそもどうやって社会を構築してきたかと言えば、原点にあるのは相互扶助だ。子宮がなくて子供の産めない女性がいて、その人のために産んであげたいという女性がいる時に、なぜそれをやめろと言えるのか、理解に苦しむ。倫理や法律が先にあり、それに人間の行動が規制されると考えるのは大きな間違いだ」

 ―代理母による出産の禁止を含め、生殖補助医療の実施を法規制する動きがあります。

 「不妊治療を受けている人たちは、社会の中では非常にマイナーな存在。社会に向かって大きな声を上げることがしにくい人たちだ。そうした立場を理解せず、社会の表にいる一部の専門家が限られた価値観で議論しても、当事者の利益にはつながらない。厚労省の生殖補助医療部会の報告を見ればよく分かる。あれも駄目、これも駄目で、医師や行政の責任逃れとしか思えない」

 ―実施基準を定めるべきではないという考えですか。

 「ある程度のガイドラインを作るのはいい。ただ、何でもある自由市場にし、自己責任で選べるようにしておくべきだということだ。強制し、刑事罰を科すのは論外のこと。自由主義社会のすることとは思えない。代理出産やその他先端の生殖補助医療を認めることによって、社会の秩序が本当に乱れるかどうか、よく考えてみてほしい」

 ―妊娠、出産に伴う代理母のリスクが指摘されます。

 「ボランティアは命がけでやるもの。どんなリスクがどのくらいの確率であるのかを事前に説明するのは医師の役目だが、それをきちんと理解した上でやろうという人を止めることはできない。万が一の場合を考えるなら、やめろというのではなく、むしろ保険制度を作るとか、社会的にサポートする手段を考えていくべきだ」

 ―姉妹間などによる代理出産では、協力を強制されるケースが出るという危ぐもあります。

 「そんな状況は社会に山ほどある。例えば裕福な兄が貧乏な弟を助けてやれ、と言われるのと同じだ。それをするかしないかは、個人個人が考え、自分の信じるところに従って決めていくこと。単純に人に言われたからやるなどとということはあり得ない」

 ―家族関係が複雑になるという批判についてはどうですか。

 「少なくとも、卵子の提供を伴わず、夫婦の受精卵で出産してもらう代理出産では、とても家族関係が複雑になるとは思えない。物心付いたころ、母親が子供を産めない体だったこと、叔母さんなら叔母さんのお腹を借りて産んでもらったこと、みんなが同じようにその子を愛していることをきちんと話してやれば、納得のいくことだ。ただ、遺伝的に完全に両親の子である場合と、卵子や精子、胚の提供を受けた場合とでは、状況が異なる。すべて知らせることが子供にとって幸せだとは思えない。当事者が納得しないのに、知らなければならないこととして出自を押しつけるのは問題だ」

 ―生殖が自然な状態からかけ離れたものになるという声をどう考えますか。

 「子供づくりは一般に、そんなに崇高なものではない。不妊治療を受けている人の方が、子供を持つということに、よほど敬けんな気持ちでかかわっている。人工的なものがいけないというなら、すべての医療を否定しなくてはならなくなる。自然状態を尊重し、追い求める人がいてもいいが、他人にまでそれを強制することはできない」

 ―着床前診断についてはどう考えますか。

 「認められるべきだ。障害があろうがなかろうが、生まれたからには差別してはいけないが、回避できるものなら回避した方がいいこともある。染色体異常で流産を繰り返し、子宮内の掻爬(そうは)のために何度も手術台に上がらざるを得ない患者が、診断を受けさえすれば確実に選択して妊娠ができる。診断を受けるなというのは酷だ。あまりに当事者の苦しみを分かっていない」




■次回(5月2日=日曜日)も「どこまで認める?生殖補助医療」インタビュー
 代理母に対するリスクの大きさから代理出産を認めるべきでないとする吉村医師と、相互扶助の精神を尊重し、リスクを説明した上で自己責任に任せるべきとする根津医師。意見は真っ向から対立しました。一方で子供の出自を知る権利については、両者とも「知らせることがすべてでない」との見解でした。次回もインタビューです。米国での不妊治療を16年にわたりあっせんしてきた女性と不妊カウンセラーに、当事者が納得のいく治療のために何が必要かなどについて語ってもらいます。


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