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「どうなってるの?子供の学力」   インタビュー   (05/1/16)



  今回のトークバトルも「どうなってるの?子供の学力」をテーマにお送りします。子供たちの理科離れを懸念し、中高生を対象に科学体験教室などを開催している「中高大の理科教育連携を考えるグループ」代表の鳥山優静岡大農学部教授に、先日発表された学力に関する国際調査の結果について感想を聞きました。また、学力向上との関係で最近注目が高まっているのが読書の役割です。県教育研究会学校図書館研究部長を務める加藤誠一静岡市立麻機小校長に、最近の学力論争に対する教育現場の率直な声を聞きました。


 静岡大農学部教授
 中高大の理科教育連携を考えるグループ代表

鳥山 優さん
静岡大農学部教授
中高大の理科教育連携を考えるグループ代表

 鳥山 優さん

とりやま・まさる氏 昭和57年、東大理学部卒業。62年、東大大学院理学系研究科博士課程修了。平成元年4月から静岡大に勤務。
“ゆとり”活用の工夫不十分

 ―先日発表された国際数学・理科動向調査(TIMSS)で、中学二年、小学四年の理科の順位が低下したという結果が出ました。理科離れやいわゆる「ゆとり教育」との関係について、どう見ていますか。

 「基礎学力と理科離れの問題は切り離して考えた方が良いのではないかというのが私の考えです。『ゆとり教育』で教科書は簡単になっていますから、基礎学力に割く時間が少なくなっていることは確かですし、平均点を上げるためには、難しいことを教えればいいんですよ。私自身はゆとり教育の本質と学力低下は直接結びつくものではないと思います。ただ、私たちが首をかしげるほど、現場の先生は忙しいようです。大人がゆとりを持てなければ、子供たちに本当の意味でのゆとり教育はできないのではないかと思います」

 ―本当の意味でのゆとり教育というのはどういうことですか。

「難しいことを教えるということは、決していけないことではありません。逆に挑戦する気持ちや克服しようとする意識を生み出します。科学体験教室も、ただ面白いものだけを提供するのではなく、わざと失敗させて、そこから新しい何かを見いだしていくようにし向けるタイプのものが、まだ少しではありますが、増えてきています。ゆとりの時間をそのようなことに使うのが本来の趣旨だと思うのですが、それができなかったから問題が起きたのだと思います」

 ―基礎学力の低下は別の問題としても、学力全般や理科離れの現状はどうなのでしょうか。

 「大学生の学力は確かに落ちているようです。知識はある程度持っているようですが、知識自体が表面的で、本当の勉強の仕方を知らないという感じがします。ある程度の試験成績を取った学生にもう少し突っ込んで聞いてみると、その向こう側に存在する基礎的な芯(しん)の部分について勉強してきた跡が感じられないことが結構あるんですね。物理も数学も結局数式を暗記するか現象を暗記するかの違いぐらいになってしまっているような感じがあります。これは小学校からの問題ではないかと思っています」

 ―なぜ小学校からの問題だと思うのですか。

 「文部科学省の統計データによると、理科嫌いになるのが大体小学五年生ぐらいからだそうです。私たちグループには小学生を相手に科学体験教室を開いているメンバーもいますが、実験で『次やりたい人』と聞くと、小学四年生ぐらいまでは活発に手を挙げるのに、五年生ぐらいから急におとなしくなってしまうそうです。中学生になると、私たちの実験講座に参加しても、本当に楽しいのか、最初はなかなか伝わってきません。でも、やり続けるに従ってどんどんのめり込んでいきます」

 ―現在の理科教育のどこに問題があると考えていますか。

 「小学校では教育課程で理科を専攻してきた教員が少ないので、実験はあまり行われていません。また、私たちグループでは中学・高校の理科教員を集めて研修を行っていますが、顕微鏡の使い方そのものをよく知らない先生もいるんですね。必ずしも生物の先生とは限りませんが。それはそれとして一番大切なのは、理科の面白さを子供たちにどうやって伝えるかだと思うんですね。それには教員自身が『理科が面白い』と思わなければ伝わっていかないわけですよ。そこが欠落しているのではないかと考えています」

 ―理科離れを食い止めるために、どうしたら良いと考えていますか。

 「現状では私たちが科学体験教室を開いても、子供たちのその後のケア体制が全然できていません。学校や一般家庭にもそういう意識がありません。例えば、児童館や科学館の実験体験教室でも、親子教室はあまり人が集まらないんですね。子供の発達を促すには、大人の力がどうしても必要です。子供たちがいろいろなことに興味を持った時に、それをどうやって次のステップに伸ばしていくかという教育プログラムの確立が大事だと思います」


 静岡市立麻機小校長
 県教育研究会学校図書館研究部長

加藤 誠一さん
静岡市立麻機小校長
県教育研究会学校図書館研究部長

 加藤 誠一さん

かとう・せいいち氏 平成11年4月から清水市(現静岡市)立江尻小校長、15年4月から静岡市立麻機小校長。16年4月から県教育研究会学校図書館研究部長を務める。
数値化できぬ生きる力重視

 ―経済協力開発機構(OECD)の「生徒の学習到達度調査」などで、日本の子供の学力が低下しているという結果が出ました。率直な感想を聞かせてください。

 「学力は必ずしもペーパーテストで測れる力だけではありません。最近の学力低下論争は、学力とは何なのかが抜けている気がします。みんなが自分の学力観で発言しているので、少しかみ合わないところが出てくるのだと思います。私自身の考えでは、学力は受験学力ではありません。教科書を使って教える教科内容そのもの、いわゆる基礎基本と、自分から考える力を融合したものだと考えています。OECD調査の例題を見ますと、確かに思考力が必要な問題だとは思いますが、それで学力のすべてを量的に測ることができるわけではないということを、きちんと言っておきたいと思います」

 ―前回のトークバトルで、苅谷剛彦東大大学院教授の「学校五日制による授業時間の減少が学力や学習意欲を両極化させているのではないか」という意見についてはどう思いますか。

 「学校五日制や総合的学習の意味や狙いについては、親にも教師にも一般にも、基本的なことがまだまだ理解されていないところが多いと思うんですよ。学校五日制の根本理念は社会情勢の変化によって価値観が多様化する中で、学校、地域、家庭の役割を明確にして一緒に子供を育てましょうということです。それがどこかへ飛んでしまって、教員の休みが増えたから授業時間が減った、だからできないんだという論法は違うのではないでしょうか。総合的な学習も、教科で得た基礎基本を使って、子供たちが生涯にわたって使える力、いわゆる『生きる力』をもっと育てていこうというのが根本理念です。それが総合的学習のある一面だけを見て、『楽しさばかり追求して本当に力が付くのか』という誤解を招いているのではないかと思います。ただ、ものすごい意欲を持って学習に取り組む子がいる一方、不登校児童もいるというように、学習意欲の両極化は確かに見られ、その方が問題だと思います」

 ―塾に行っていない子供の成績が落ちているという苅谷教授の調査もあります。公立学校の教える力が落ちているのではないですか。

 「塾というのは簡単に言えば、受験学力ですよね。受験のルートに乗るための一つの力でしょう。確かに知識の量を詰め込んでいくという面で、学校でできなかった部分を補うという側面は、親として切実な問題でしょう。それを学力と思わないでほしいですね。もう一つは、授業日数が減ったことで、先生の会議や研修などが五日間に凝縮され、先生が多忙化している側面はあります。先生自身に子供と自由に接する時間がもう少し欲しいとは思います。これは真剣に考えていかなければならないと思います」

 ―「学力向上」が盛んに言われ出してから、読書の役割が全国的にも注目されていますよね。なぜ読書が大切なのでしょうか。

 「読書ができる、読書をする、ということは学力そのものだというのが私の考え方です。つまり自分が持っている基礎基本的な力と、自分で考えて、学習したり解決したりしていく力を学力と言っていますから、文字を通して自分の想像力や思考力を働かせたりしながら問題を解決していくのは、それは読書だと思うんですよ。今の子供たちの生活環境は、バーチャル化された映像文化の中にどっぷり漬かってしまって、それで本当に子供たちに生きていく力、つまり感性や判断力が付くのかなという危機感があります。座って見ていれば映像が流れてきて、面白くて分かった気になる。それで非常に短絡的に簡単な思考経過しか持てなくなってしまい、学習意欲の低下にもつながっているのではないでしょうか。もっと自分の目を使って文字を使って頭を働かせて、一生懸命いろんなことを考えていくというものをどんどん学校教育の中で取り入れていかねばならないと思います」




■ 次回(1月23日=日曜日)も「どうなってるの?子供の学力」インタビュー
  加藤誠一校長と鳥山優教授のインタビューはいかがでしたか。ペーパーテストの結果を学力低下や理科離れと直接結びつけることにはいずれも慎重な2人でしたが、いわゆる「ゆとり教育」批判については、「学校5日制や総合的学習について、親や教師や一般も、まだまだ理解が十分ではない」という加藤校長の意見に対し、鳥山教授は「本当の意味でのゆとり教育ができていないから問題が起きたのではないか」という意見でした。次回も引き続き、子供の学力についてインタビューをお送りします。


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