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公開すべき?性犯罪者情報」   インタビュー(1)  (05/02/06)



 奈良の小一女児誘拐殺害事件で逮捕された容疑者が、過去にも幼女を狙った性犯罪を繰り返していたことから、性犯罪の再犯防止策の強化や、前歴者情報共有の必要性が指摘されています。法務省と警察庁は、受刑者情報を管理する法務省が、性犯罪者の出所後の居住地情報を警察庁に提供し、再犯防止に役立てることで合意しました。海外では、性犯罪者の司法機関への名前、住所の登録、住民への告知を義務づける米国のミーガン法の例もあります。性犯罪前歴者の情報をどう扱うべきでしょうか。前歴者の社会復帰を支援する保護司と、被害者の会の関係者に話を聞きました。

 県教誨師会長
伊藤 通明氏
いとう・みちあき氏 大正13年、静岡市生まれ。感応寺住職。平成2年から4年、日蓮宗宗務総長に任じた。被収容者に宗教的情操教育を行う教誨(きょうかい)師、保護司を長年務める。
抑止効果より弊害を予想

 ―奈良の女児誘拐殺害事件をきっかけに、法務省から警察庁に性犯罪前歴者の居住地情報が提供されることになりました。どう受け止めますか。

 「性犯罪ばかりが取りざたされていますが、四十年の保護司の経験から言えば、再犯を防ぐのが難しいのは他の犯罪、例えば覚せい剤にかかわる犯罪なども同じです。現在では、刑期を満期で終えて出てくれば、言葉は悪いが野放し。仮釈放なら、保護観察期間には居住地などが把握できますが、終わればそれ以上の追跡はできない。性犯罪に限らず、しかるべき機関が情報を把握し、注意を怠らずにいることは、社会の安全を守る上で大事なことでしょう」

 ―米国などのように、性犯罪者の情報を一般に公開していくべきではないかという議論も起きていますが、どうですか。

 「根本的な解決にはならないと思います。例えば地域住民に、性犯罪者が地域にいると知らせたとしても、四六時中誰かが監視していることはできません。また、犯罪者も情報が流れていることを知っていますから、住んでいる地域で再び犯行に走るとは限らない。転居を届ける義務を課したとしても、無届けで勝手に転居してしまうこともあるかもしれません」

 ―再犯の抑止効果を期待する声もありますが。

 「厳罰化の議論にも同じことが言えますが、法律の締め付けを強くして、犯罪を抑制することには限界があると思います。刑罰が重くなったから犯罪をやめようという人間があまりいないのと同様、名前や住所が公開されるからといって、異常な性衝動が抑えられるとは思いません。情報公開には、むしろ弊害の方が大きいと思います」

 ―どんな弊害が起きてくるでしょうか。

 「最も怖いのは、犯罪者がレッテルを張られてしまうことです。こういう種類のうわさほど、おもしろおかしく広まりやすいものはありません。保護司は保護観察の対象者の前歴が周囲に知れないよう、最善の努力をし、社会復帰を支援しています。職場訪問なども親せきを名乗って訪ねたり、神経を使います。刑務所で罪を償ってきたのに、社会に出てからも後ろ指を指されるようでは、二重に罰を受けるのと同じ。そんな環境で更生していけるのかどうかは疑問です」

 ―性犯罪の再犯を防ぐには何が必要でしょうか。

 「性犯罪者は心の中に、異常な性的志向を強く持っている。矯正教育にも、一般的な職業訓練などとは別に、心の教育が必要です。覚せい剤にかかわる犯罪の場合は、専門の面接員がいるなど、特別な更生のための仕組みがあります。しかし、性犯罪者に対する特別の矯正教育というのは、ほとんど行われていない。専門施設もありません。再教育のプログラムを充実させることが必要です」

 ―性犯罪は再犯率が高いと指摘されます。

 「根本的に犯罪を減らそうというなら、時間がかかっても幼少期における家庭教育、学校教育に頼るほかない。罪を犯してからの矯正教育でなく、当たり前の善悪の教育です。いくら刑罰を重くし、社会の監視機能を強化したところで、対症療法でしかない。確かに適切に罰し、矯正することを考えるのは急務ですが、同時に後から続く者に罪を犯させないよう幼少期の教育を充実させることこそ、最も犯罪抑止に効果的な道です」

 ミーガン法 1994年、米国ニュージャージー州で7歳の少女ミーガン・カンカちゃんが、近所に住む男に「子犬を見せてあげる」と自宅に誘い込まれ、乱暴、殺害された。男には過去に幼児への性的虐待で2度の服役歴があったことから、同州では、司法機関に対し性犯罪者の前歴を住民に告知することを義務づける法律が成立し、被害女児の名が冠された。96年には連邦法となった。運用は州によって異なるが、現在半数近くの州がインターネット上で前歴者情報を公開している。


 全国犯罪被害者の会「あすの会」幹事
松村 恒夫氏
まつむら・つねお氏 昭和16年、東京都生まれ。平成11年11月、文京区で殺害された若山春菜ちゃん=当時(2つ)=の祖父。今年1月から現職。
警察把握だけでは不十分

 ―法務省から警察庁に性犯罪者の出所後の居住地情報などが提供されることになりました。

 「国民の安全を守るため、国の責務として当然すべきことです。性犯罪者に限らず、犯罪者の履歴は、国が管理し、有効に活用すべき情報。今回の奈良の事件も、情報共有が行われていさえすれば、事件自体を防ぐことができたかもしれないし、解決にこれほど時間はかからなかったでしょう。けがをしたり、最悪の場合には命を奪われるまで、捜査機関が罪を犯す危険の高い人物について、何の情報もなく、対策が講じられないのはおかしい。犯罪の芽を小さなうちに摘むことができるよう、法整備も含め環境を整えてもらいたい」

 ―米国で行われているような情報公開についてはどう考えますか。

 「捜査機関が情報を持ち、警戒を強めれば、ある程度の犯罪の抑止にはつながるかも知れません。ただ、本当に再犯防止を考えるなら、捜査機関だけが知っていてもできることは限られます。警察も二十四時間監視できる訳ではないでしょう。どこまでどんな形で公開するのか十分話し合った上で、ある程度一般に情報を公開しなくては、本当の意味では役に立たないのではないでしょうか」

 ―公開は、犯罪者のプライバシーを侵害し、社会復帰を妨げるという指摘もあります。

 「情報をどう活用するか、誰が使うのかについては、もちろん国民的なコンセンサスが必要でしょう。この問題は、これまでにも繰り返し議論されていることですが、突き詰めれば被害者の人権を優先するか、加害者の人権を優先するかという問題になる。再犯の可能性が高い潜在的な加害者の権利が、ある程度制限されるのはやむを得ないことだと思います。日本ではこれまで、むしろ加害者の人権ばかりが尊重されてきた」

 ―さまざまな個人情報が国に管理されることについて、懸念の声もあります。

 「見つからなければ何をしてもいいというようなモラルの低下があり、地域の防犯力もなくなってしまっている現在、管理的傾向が強まるのは致し方ない。防犯カメラの普及が、犯罪の摘発や抑止に結びついているのを見ても、管理、監視の必要性は分かるはずです。やましいところがなければ、治安を守るために協力できるはずです」

 ―日本の安全管理意識は低いと考えますか。

 「米国ではテロ対策として、出入国するすべての外国人の指紋採取と顔写真撮影を始めています。一方で日本は、人権上問題があるとして、外国人の住民登録の際に行っていた指紋押捺(なつ)をやめましたが、指紋を採取することと犯罪者扱いすることは別。これだけ外国人が大量に流入してくる時代、いかに科学的に管理するかは当然の課題です。人権問題でなく、国家の安全管理上の問題として考えていくべきでしょう」

 ―性犯罪の再犯防止に何が求められるでしょうか。

 「手を尽くした上で、矯正できない人間については薬物療法を受けさせるとか、名前や居住地を公開するといった強制的な対応が求められるでしょう。ただし、公開したからといってすべてが防げるものではありません。一対一になってしまえば被害を防ぐのは無理。あれだけ注意したのに被害に遭う方が悪い、という被害者への責任転嫁があってはなりません。犯罪や人の生活が広域化する中、関係機関が情報共有の重要性を自覚し、早期に対応できる態勢を整えておくことが第一です」



■次回(2月13日=日曜日)も「公開すべき?性犯罪者情報」インタビュー

 みなさんはこの問題をどう考えますか。法務省から警察庁への情報提供については、おふたりとも犯罪抑止や捜査上の必要性から、異論がないようです。ただ、住民への情報公開については、「前歴者の社会復帰を妨げる」「公開しなければ、本当の意味での犯罪防止には役立たない」と意見が分かれました。次回のトークバトルも「公開すべき?性犯罪者情報」です。2人の研究者に、海外事情などを含めて話を聞きます。


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