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| 「公開すべき?性犯罪者情報」 インタビュー(2) (05/02/13) |
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奈良の小一女児誘拐殺害事件を受け、法務省から警察庁への性犯罪者の出所後の情報提供が、新年度早々にも始まる見込みです。子供の性犯罪被害を防ぐため、各国にはさまざまな制度があり、米国や韓国などのように、前歴者の名前や居住地、犯罪歴などを一般に開示している国もあります。日本では、どのような制度整備が求められるのでしょうか。性犯罪者情報の扱いを考えるトークバトルの第二回は、犯罪学と刑事法の専門家に聞きました。 |
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―法務省から警察庁への性犯罪前歴者の情報提供について、どう考えますか。 「そもそもこうした情報提供自体に問題があると思いますが、なぜ性犯罪者に限るのかについても、説得力のある説明がありません。制度導入の理由として、性犯罪の再犯率の高さが挙げられていますが、昨年度の犯罪白書を見ると、一般刑法犯が、同種の犯罪を再び犯す割合は13・7%。これに対し、強姦は8・9%、強制わいせつは11・5%と、必ずしも高いとは言えません。もう少し慎重にデータを分析し、検討すべきだと思います」 ―奈良の女児誘拐殺害事件で、社会不安は高まりましたが。 「近年、刑事政策の分野では、EBP(Evidence Based Policy=実証に基づいた政策)という概念が重視されるようになってきています。漠然とした印象や社会不安に基づいた政策はすべきでないという考えです。事件は悲惨で、被害者の心情は察するに余りありますし、子供を持つ親に不安が広がるのも分かる。しかしそれとは別に、新制度の導入にあたり、EBPが満たされたのかどうか、冷静に検証しなくてはなりません」 ―議論は不十分だったと思いますか。 「新しい政策を展開する場合、まず、政策によって解決すべき問題が本当に存在するのかどうか、十分検討する必要があります。今回の場合なら、性犯罪の再犯が多いことを実証しなくてはなりません。さらに、政策導入によって問題が確かに解決できるのか、他の方法はないか、憲法上の権利侵害は発生しないかどうか。こうした点がすべてクリアされなければ、政策として妥当性がありません。国はこれらをきちんと説明できていない」 ―米国のような地域住民への情報公開についてはどう考えますか。 「情報を一般に公開するとなれば、前歴者に対する不利益は一層深刻になります。米国のミーガン法によって居住地等の情報を公開された出所者に対する追跡調査では、嫌がらせを受けたり、地域に住めなくなったりする事態が、実際に生じていることが分かっています。こうしたことは日本でも当然予想される。オウム事件の後、各地で信者が排斥されたことを見れば分かります。前歴者の正当な権利である社会復帰が、深刻に阻害されることは間違いない」 ―情報公開による犯罪抑止効果はどうでしょうか。 「抑止効果が本当にあるのかどうか、疑問です。情報が公開されれば、前歴者はコミュニティーに戻れず、住所不定になり、職もなく転々とすることになるのは目に見えています。生活が安定しなければ、再犯のリスクは高まる。収入や人的ネットワークが奪われれば、再び犯罪に走っても不思議ではありません。再犯防止の目的は、かえって達成しにくくなるでしょう」 ―性犯罪の再犯防止には、何が有効なのでしょう。 「認知の偏りや依存といった問題を抱える犯罪者本人から、自発的に変わろうという気持ちを引き出さなくては、根本的な解決にはならない。今までの刑務所は、刑務作業のみで、矯正教育をほとんど行っていませんから、転換が必要です。ただ、その際重要なのは、自発的な意欲を引き出すこと。心理学や人間科学の領域からのアプローチが必要だと思います。矯正局が性犯罪の再犯防止プログラムを作り、受刑者に参加を義務づける方針を打ち出しましたが、これは方向違い。強制すれば、自発性を引き出すことは難しくなります」 ―再犯の防止に向けた制度設計はどうあるべきでしょうか。 「社会復帰は受刑者の重要な権利です。現行制度では、出所者にはかなり広い範囲で資格制限があり、就くことのできない職業が多くあります。しかし、こうした排除は再犯抑止にはつながらないという考えから、専門家の間では、制限を緩和していくべきだという声が高まっています。今回の政策は、こうした方向にも逆行している。また情報公開のことで言えば、知らされたからといって、不安が解消するのかどうかも疑問です。むしろ、出所者が普通の生活を再建することを支援していくことが、社会全体の安全につながるのではないかと考えます」 |
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―米国で施行されている―ミーガン法はどのような法律なのですか。 「最初に法律が制定されたニュージャージー州の場合、性犯罪者を三つに分けて登録し、段階的に情報公開をしています。住民に情報が公開されるのは、再犯の危険性が高いランク3と判定された場合。ランク1の前歴者は警察、司法機関など公的機関が情報を把握するだけで非公開。ランク2は学校や図書館など、子供が集まる施設、機関に限定して情報が開示されます。もちろん関係者には守秘義務が課されます」 ―具体的にどのような方法で公開されているのですか。 「公開の内容や方法など、運用は州によって異なります。テキサス州のように、裁判官の命令で、性犯罪者であることを示すステッカーを家や車に張るよう義務づけるなど、厳しい措置を取る州もあります。米国では昨年、二重の刑罰にあたるなどとしてミーガン法に基づく情報公開の違法性が争われた裁判で、連邦最高裁が、情報公開は刑罰ではなく行政処分であり、合法―との判断を下しました。この判決以降、インターネット公開に踏み切る州が増えているようです」 ―韓国も米国に近い制度を持つと聞きます。 「二〇〇〇年から導入しています。米国は十四歳未満に対する性犯罪が対象ですが、韓国は十八歳以下で、児童買春まで含まれる厳しい制度です。名前と性犯罪歴、住所を市まで公開し、顔写真は出していません。官報や市庁舎、インターネットで公開している。しかし韓国は名字の種類が少なく、同姓同名が多いため、勘違いされた無関係の人間が職を失うような事態も起きていると聞きます」 ―登録制度だけを持ち、非公開の原則を貫く国もあるそうですね。 「英国は性犯罪者情報をデータベース化し、捜査目的に利用してきました。ただし、それだけでは再犯防止に効力がないという声が高まり、一九九八年、民事処分として、精神科医や保護観察官らの意見を参考に、再犯の危険性が高い性犯罪者に出所後一定期間、外出制限などの命令を出し、監視する制度を作りました。日本でいえばストーカー防止法の接近禁止命令のようなものです」 ―性犯罪者だけを特別に扱うことに問題はないのでしょうか。 「性犯罪者は、同種の犯罪を繰り返す可能性が高いことは確かです。病気のようなもので、異常な性癖は直りにくく、同じ手口で犯行を重ねる。その意味で、データベース化すれば、事件情報から犯人像を導き出すプロファイリングと併せて、捜査には非常に有効でしょう」 ―日本の関連制度は、これまでどのようだったのでしょうか。 「日本にも犯罪者登録の制度はあります。大正六年から、市町村が管理している犯罪人名簿がある。前歴者が選挙に立候補したり、公職に就くことを防ぐためのものです。また、平成十三年からは、再被害の防止を目的に、出所情報を被害者等に通知する制度も導入しています。法務省から警察庁への情報提供の仕組み作りと、今後の制度整備は、これらを下敷きに進めていくことになるでしょう」 ―今後の制度整備はどうあるべきでしょうか。 「データベースがあれば、今回の奈良の事件は一週間もあれば犯人にたどり着いたはず。データベース化は当然ですが、問題は今後、どこまで、どういう情報を公開していくかということです。行政判断だけでなく、国民的な合意を得た上で、法整備も必要になるでしょう。個人的には、学校や保護者など関心の高い人たちには、情報にアクセスすることを認めるべきではないかと考えます」 ―日本は性犯罪者に対する矯正教育が不十分だという指摘もあります。 「再犯の可能性が高い犯罪者は、社会に出すなら監視を強めるか、長く施設に入れておくか、両方の考え方がある。米国などが前者に力点を置いているとすれば、ドイツやスイスは後者寄りで、性犯罪者の治療施設を整備し、治療が不可能と判断された場合には、無期の保安監置処分も行っています。日本には治療施設さえない。どちらにしても、取り組みが遅れています」 |
ミーガン法 1994年、米国ニュージャージー州で7歳の少女ミーガン・カンカちゃんが、近所に住む男に「子犬を見せてあげる」と自宅に誘い込まれ、乱暴、殺害された。男には過去に幼児への性的虐待で2度の服役歴があったことから、同州では、司法機関に対し性犯罪者の前歴を住民に告知することを義務づける法律が成立し、被害女児の名が冠された。96年には連邦法となった。運用は州によって異なるが、現在半数近くの州がインターネット上で前歴者情報を公開している。
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| ■次回(2月20日=日曜日)も「公開すべき?性犯罪者情報」インタビュー
日本の制度整備の遅れを指摘し、教育関係者や保護者などへの限定的な情報公開については検討すべきとする藤本教授に対し、渕野助教授は法務省から警察庁への情報提供について、性犯罪者に限る必然性などが十分説明されていないと疑問を投げ掛けました。情報公開についても、前歴者の社会復帰に深刻な問題が生じ、再犯防止にも逆効果になると懐疑的です。 |