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公開すべき?性犯罪者情報」   インタビュー(3)  (05/02/20)



  奈良の小1女児誘拐殺害事件をきっかけに、法務省から警察庁に対し、性犯罪者の出所後情報が提供されることになりました。性犯罪に限らず、前歴者による凶悪事件が相次いでいることから、政府はこの情報提供を麻薬や放火など、再犯率の高い他の犯罪に拡大するかどうかの検討を始めています。抑止効果を持たせるには、住民への情報公開を考えるべきとの声もあります。性犯罪前歴者情報の扱いを考えるトークバトルの第3回は、弁護士へのインタビューです。県弁護士会人権擁護委員長の細沼賢一さんと静岡犯罪被害者支援センター副理事長の白井孝一さんに意見を聞きました。

 静岡犯罪被害者支援センター副理事長   
白井 孝一さん
しらい・こういち氏 弁護士。昭和19年、静岡市生まれ。中央大法学部二部法律学科卒。日弁連犯罪被害者支援委員会副委員長、県弁護士会犯罪被害者支援委員などを務める。
治療、研究体制の充実を

 ―法務省から警察庁への性犯罪者の出所情報提供について、どう考えますか。

 「刑を終えてしまえば、過去に犯罪を犯した者であっても、何ら制限のない人権を持っています。一方で、市民の側には安全に暮らす権利がある。弱い立場にある女性や子供を狙い、犯罪を繰り返す恐れのある人間がいれば、再犯防止の対策を整えさせるのは市民の当然の権利。問題は双方の権利の兼ね合いをどう考えるかです。情報提供ですべて問題が解決するとは思いませんが、性犯罪は被害者の恐怖感が大きく、表面化しない被害も多いことなどを考慮すれば、何らかの対策は必要でしょう」

 ―性犯罪だけを特別視することに疑問の声もあります。

 「再犯率をどう見るかは、難しい部分もあります。しかし性犯罪の被害申告率は、他の犯罪に比べて極端に低い。昨年度の犯罪白書によるとわずか14・8%で、認知件数の5―6倍の被害者がいるということになります。病的に犯行を繰り返す性犯罪者がいることを考えれば、再犯しても捕まっていないケースも考えられる。そういう特殊性はあります」

 ―どのような再犯防止策が望ましいでしょうか。

 「再犯の可能性がある前歴者に絞って対策を立てることが重要です。そうでなければ人権侵害のそしりを免れない。性犯罪を繰り返す人間は、病気や人格障害などの問題を抱えています。そこに焦点を当てた対策が必要でしょう。いくら警察が情報を把握しても、事件が起こってもいないのに行動を起こすことはできないし、24時間監視する訳にもいかない。情報提供は根本的な防止策にはなり得ません」

 ―具体的にどのような対策が考えられますか。

 「厚労省は、覚せい剤やシンナーなどの薬物犯罪については特別研究班を作り、法学や医学、薬物などの専門家が、治療も含めた研究を行っています。性犯罪に対しても同様に、研究チームを組織し、専門の治療施設を作るなどアフターケアの充実を考えていくべき。医療や心理分野からのアプローチも含めた治療プログラムが必要です

 ―治療を受ける意思を引き出すことは可能でしょうか。

 「そのために、硬直化した刑罰制度を見直す必要があると考えます。裁判の中で、被告人がどんな問題を抱え、どんな治療が必要とされるかについて、刑罰と別に宣告することも必要なのではないでしょうか。治療にも強制力を持たせ、不服があれば申し立てできるよう手続きを定めればいい。それでも駄目なら通告や監視もやむを得ないのかもしれない。人権侵害だからできないというのではなく、現実的に対応していくことが求められていると思います」

 ―米国のような性犯罪者情報の住民公開について、どう考えますか。

 「隣家まで1キロも2キロも離れ、警察のパトロールだけでなく、被害者支援のボランティアパトロールがあるような米国では、前歴者の所在を周知しておくことは、事件が起きた時の早期対応のためにも必要かもしれない。しかし、日本は事情が違います。そんなことをしたら確実に地域に住めなくなり、性犯罪者は地下に潜るしかなくなります」

 ―情報公開はすべきではないのでしょうか。

 「一般的な情報公開は明確な必要性がないと思います。ただし、被害者への情報提供は大事です。再被害を防ぐため、被害者に対して情報を提供し、対策を立てる余裕を与えることは非常に重要。現在も被害者への出所情報の連絡制度はありますが、もっと被害者の権利として、広く認められていくべきだと思います。情報把握は被害者を含め、警察、医師など、最低限必要な範囲にとどめるべきでしょう」


 県弁護士会人権擁護委員長          
細沼 賢一さん
ほそぬま・けんいち氏 弁護士。昭和25年、沼津市生まれ。中央大法学部法律学科卒。県弁護士会副会長などを歴任し、平成16年から現職。
厳しい監視社会生む恐れ

 ―法務省から警察庁へ性犯罪前歴者の情報が提供されることになりましたが、どう受け止めていますか。

 「初犯で更生する例はいくらでもある。立ち直ろうと努力している人間を真っ先に疑い、新しい職場や自宅に警察官が訪ねたりしたらどうなるか。更生を台無しにしかねません。また、警察が情報を把握したからといって、再犯予防のためにずっと見張っているということも無理でしょう。再犯抑止につながるとは思えません」

 ―警察に情報が登録されていることで、心理的な抑制効果を期待する声もあります。

 「名前や住所が警察に登録されているからといって、再犯防止にはつながらない。分からないと思ってやるだろうし、衝動を抑えることも困難だと思います。前歴者の情報を警察が把握していれば、新たな事件が起きた場合、捜査上の利点はあるでしょう。しかし、偏見に基づくえん罪が増える可能性もあります」

 ―性犯罪者に対象を限ることについてはどうですか。

 「必然性は薄いと思います。再犯の多さで言うなら、覚せい剤の方が多い。中毒者は被害妄想から暴力的になり、本人だけでなく、他人を巻き込む凶悪犯罪に発展する可能性は10分あります。また、何を性犯罪と定義付けるかも、あいまいです。今のところ幼児に対し、暴力を伴う性犯罪を犯した成人が対象ということですが、どこまで範囲が広げられるか歯止めがない」

 ―性犯罪は矯正が難しいとも言われます。

 「刑務所に一定期間収容されたにもかかわらず、性犯罪者が再び犯罪を犯すのは、矯正教育ができていないということです。現在の刑務所は、自律的に物を考えたり、行動したりできるよう矯正する教育の場になっていない。規律でがんじがらめにし、秩序を保つことだけに重きが置かれている。適切な矯正教育が行われていないのに、矯正できないと決めつけることはできないでしょう」

 ―前歴者の情報を公開し、地域で監視していくべきだという考えもあります。

 「公開は論外です。地域で犯罪者のらく印を押され、単なる興味や排除の対象になることは目に見えています。本人だけでなく親兄弟や親類まで、差別の対象になりかねない。ますます社会復帰は困難になります。疎外感からストレスが増大し、犯罪を誘発する可能性さえあります」

 ―警察や地域社会による監視は犯罪抑止に有効ではないのでしょうか。

 「これまでの弁護経験から言うと、犯罪の背景には必ずと言っていいほど、経済的困難、恵まれない家庭環境、本人の能力の問題などがあります。犯罪を抑止するためには、ハンディがあっても落ちこぼれることなく、きちんとした社会生活を営んでいけるような社会構造を生み出していかなくてはいけない。強いものや効率の良いものだけを評価する社会の価値観を変えていく必要があります。また、性犯罪について言えば、子供でも簡単に入手でき、好奇心だけをあおるような性情報があふれていることも大問題です。これらに目を向けず、個人への監視だけを強めるのはあまりに安易です」

 ―即効性のある対策はないのでしょうか。

 「時間がかかっても、社会構造を変えていくしかありません。そもそも、人間の自然な社会では、一定の割合で犯罪が起きることは避けられない。完全に犯罪のない社会を望むなら、自由を放棄しなくてはなりません。例えば刑務所は、犯罪を犯した人間ばかりが集まっているにもかかわらず、凶悪犯罪は起きない。つねに規則や監視で行動を縛られているからです。社会全体を極限まで管理すれば犯罪はなくなるかもしれませんが、誰がそんな息苦しい社会を望むでしょうか」

 性犯罪者の再犯率 警察庁の2003年の統計によると、強姦を犯した成人のうち、過去に強姦で摘発されたことがある割合は8.9%、同様に強制わいせつで摘発された成人のうち、強制わいせつで摘発されたことがある割合は11.5%。殺人の3.8%、強盗の6.7%よりは高いが、窃盗の18.6%より低い。
 しかし強姦の前歴者が強制わいせつで摘発された場合や、その逆のケースの統計はなく、性犯罪全体の再犯状況は分かっていない。児童を対象にした性犯罪の再犯データもなく、警察庁は統計方法の見直しを進めている。
 また2004年に小学生以下の子供が被害にあった強姦は54件、強制わいせつは1564件だった。



■次回(2月27日=日曜日)は「公開すべき?性犯罪者情報」投稿特集

 両者とも、前歴者の情報提供は必ずしも再犯の防止につながらないと見ているようです。情報公開についても息詰まる監視社会を生む、犯罪者が地下に潜るなどとして、慎重な姿勢でした。再犯防止策については、白井さんは専門の対策チームによる研究と治療体制の充実、細沼さんは弱者が落ちこぼれない社会の創出などを挙げています。次回は投稿特集です。前歴者の情報提供はどうあるべきでしょうか。どうすれば再犯を防げると思いますか。みなさんの声を寄せて下さい。


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