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臓器移植法改正は必要か   インタビュー  (05/12/11)

 脳死者からの臓器提供を可能にした臓器移植法が1997年に施行されてから8年。本人の書面による意思表示などの脳死判定に必要な条件を緩和し、臓器提供を増やそうとする法改正の動きが進んでいます。大幅な改正の是非を賛成、反対の2人に聞きました。(共同)

日本移植者協議会理事長
大久保通方さん
おおくぼ・みちかた氏 1947年、大阪市生まれ。写真家。30代で腎臓移植を受け91年に日本移植者協議会を設立。移植医療の普及啓発に取り組む。   
提供増加へ要件緩和を

 ―前国会で臓器移植法改正の2法案が提出され、郵政解散ですぐに廃案になりました。

 「法施行からずっと、患者や家族は改正を待ち望んでいます。廃案になったのは残念ですが、具体的な法改正がそこまできているという希望を患者、家族に与えたことで評価しています」

 ―どのような改正を望みますか。

 「脳死を人の死とし、本人が拒否の意思表示をしていなければ、年齢にかかわらず家族の同意で脳死判定と臓器提供が行えるというのが、移植医療の世界標準です。河野太郎衆院議員らが提出したこの内容の改正案が、できるだけ早く国会に再提出され、可決、成立することを願っています」

 ―法施行後の移植医療をどう評価しますか。

 「法施行から8年間に国内で実施された脳死移植は39件。年にわずか5件程度しか行われていません。米国では心臓移植だけで年間2000件以上が実施されています。一方、内閣府の世論調査では半数以上が臓器移植に関心があり、3分の1は、自分が脳死と判定されれば臓器を提供したいと答えています。提供したいという善意は多いのに生かされていない。いわばミスマッチが起きています」

 ―現行法の問題点は。

 「脳死での臓器提供には、書面による本人の意思表示に加えて家族の承諾が必要という、世界でも類のない厳格な要件が壁になっています。15歳未満の臓器提供が禁じられ、小児の移植がほとんどできないことも日本だけの制限です

 ―前国会に提出された別の改正案では、脳死判定の対象を12歳以上に広げています。

 「法施行後、約60人が海外で心臓移植を受けたが、その多くは小児です。小児の心臓移植は臓器の大きさが同じぐらいでないとできません。このため臓器提供が可能な年齢を12歳以上まで広げても、幼児や小さな子供は救えません。また中学生の年齢で生と死を深く考え、自らの意思を決定できるか、現状では疑問です。やはり、年齢制限をなくし、本人の意思が明らかでない場合は、家族が本人に代わって臓器提供するかどうかの意思決定を行うという法改正が必要です

 ―本人意思を尊重する現行法から180度の転換ではないですか。

 「脳死と判定されれば臓器を提供する、脳死判定を拒否するといういずれの意思も、最大限に尊重されねばなりません。提供する、あるいは拒否するという意思表示カードや、日本臓器移植ネットワークに自らの意思を登録しておく制度など、多様な方法で自己決定権を保障していくことが必要です」

 ―脳死移植に対する国民の理解は進みましたか。

 「法施行から8年、1999年の最初の脳死移植からは6年以上が経過しました。この間、すべての脳死移植について第三者機関が検証する世界に例のない制度の下で、大きなトラブルもなく移植が行われてきました。脳死が死であることと、移植医療の重要性について国民の理解は確実に深まっていると思います」

 ―国会の審議に望むことは何ですか。

 「患者団体などが、海外のような移植医療を日本でも実現してほしいと国会や行政への働きかけを始めてから10年以上がすぎました。この間、助かる可能性のあった多くの命が失われています。1日1日に命のかかった法案であることを認識してほしいです」


ノンフィクション作家
中島みちさん
なかじま・みち氏 ノンフィクション作家。著書に「がん・奇跡のごとく」(文春文庫)「脳死と臓器移植法」(文春新書)など。
改正案は法の本質無視

 ―臓器移植法改正に向けた動きが進んでいます。

 「かつてない危機感を覚えています。現行法は十数年の長い論議を経て成立しました。ところが、脳死を一律に人の死とし、家族の同意だけで臓器提供を可能にする改正案は、現行法の根幹となる部分を無視して、ただ臓器の提供件数を増やすことを目的としており、とても認められません

 ―現行の臓器移植法をどう評価しますか。

 「現行法の最大の特徴は、臓器移植の場合に限り脳死を人の死とする六条の規定です。脳死を人の死とするかどうかは賛否が分かれ、社会的合意はありません。一方で、自らが脳死と判定されれば誇りを持って臓器を提供したいという意思を尊重したい。そのぎりぎりの論議の結果として、脳死での臓器提供を可能にしました。妥協ではなく、知恵を出し合った成果です」

 ―海外の法制度の多くは「脳死は人の死」を前提としています。

 「日本の臓器移植法が遅れているという批判は当たりません。むしろ自国の文化、死生観まで広く論議したうえで脳死を一律に人の死とせず、臓器を提供するかどうかは患者の自己決定権によることを明確に規定した点で、世界に誇るべき法律といえます」

 ―河野案は、本人が事前に拒否の意思表示をしていなければ、家族の同意だけで脳死での臓器提供を可能としています。

 「本人が署名したドナーカードなど書面による臓器提供の意思表示に従って自己決定権を保障することが現行法の基本です。家族の同意だけで可能にするという改正案は、『取れる臓器を増やしたい』という効率だけを優先した発想です。書面による本人意思表示がないと、貴重な別れの時間に家族は医療側から提供を口説かれ、後に悔いを残しがちです。あまりに問題が多く、医療現場は確実に混乱します」

 ―現行法は施行時に3年後の見直しについての条項が設けられていました。

 「見直し規定は、実際の運用やシステムでどこに問題があるのかを法の理念に沿って点検するためのものです。六条の脳死についての規定は法の本質であり、見直しの対象ではないという合意があったはずです。改正案はこうした経緯を無視し、法的根拠もなく脳死は死ということを前提としています

 「脳死を一律に死とすることはすべての人の死、終末期の医療に大きくかかわる問題です。法施行から8年で、社会的合意ができたとはとても思えません。もし六条について変えるのなら、もう1度、脳死臨調のような国民的論議から始めることが必要です」

 ―国内の脳死移植は増えていません。

 「現行法の問題は、子供の脳死移植です。日本で移植医療を実現させようとした原点は、重い疾患の子供を移植で何とか救いたいという思いです。現行法の基本はそのままで、特別な例外として子供については家族の同意で脳死での臓器提供ができるとするのが本筋でしょう。ただし、子供の脳死移植については、第三者機関が脳死判定の前から監視する制度が不可欠です」

 ―国会も世代交代が進み、衆院で現行法の審議経験者は半数以下です。

 「いま危惧(きぐ)しているのは、総選挙の結果にみられるように、ワンフレーズの分かりやすさを求める風潮です。臓器提供を増やすという効率だけをテーマに国会の審議が進められるのではないかと危機感を持っています。脳死を人の死としてよいかは極めて重要な問題であり、根源的な論議が重ねられてきたことをあらためて認識してほしいです」



■次回(12月18日=日曜日)も「臓器移植法改正は必要か」インタビュー
 臓器提供を増やすためにも早急な法改正が必要だとする大久保さん、「脳死は人の死」という社会的合意はなく、現行法の本質を無視した改正案は認められないとする中島さんのインタビューはいかがでしたか。次回は県内の関係者に聞きます。推進派として、浜松医大泌尿器科の鈴木和雄医師に、慎重派として「全国交通事故遺族の会」静岡県地方連絡所代表世話人の木内慈巳さんに語っていただきます。


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