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| あべ・かつゆき氏 1944年、東京都生まれ。東大地震研究所教授を経て今年から現職。政府の地震調査委員会委員長。
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 | | 科学にとっての挑戦
―大規模地震対策特別措置法(大震法)は必要か。
「法律ができた当時は東海地震があす起きてもおかしくないと言われ、国としては直前予知を実行することと、実行した場合の防災対策を考える必要があったのだと思う。地震予知はあくまでも科学の話だが、予知の情報を受け取る側の国や自治体を動かすためには法律が必要だ。大震法は科学と住民との橋渡しとして必要だと考える」
―それでは東海地震は予知できるのか。
「一般的に言って地震予知はできないというのが今の科学者の主流だ。ただし東海地震は予知できる可能性がある。地球を覆うプレート(岩板)の境界面が滑って起こるとされる東海地震は規模がマグニチュード(M)8という巨大地震で、震源域の大半が陸地の下にある。地震の前にはM5クラスの『プレスリップ』という前兆滑りが起こると考えられ、陸上で精密な観測をすれば、とらえられる可能性がある」
―どうやって予知しようとしているのか。
「以前は漠然とした前兆をとらえて予知しようとしていたが、この10年で予知のシナリオが変わった。実験的にも理論的にも分かっている前兆現象に限る時代になった。それがプレスリップで、岩石の滑りを調べる実験で見つかった。プレスリップをとらえられれば、その加速の具合から、地震の発生時刻をある程度知ることができる。井戸水が濁ったからといって地震との関連や発生時期は分からない」
「情報の出し方も変わった。プレスリップをとらえるため、想定震源域には『ひずみ計』が配備され、プレスリップを1カ所で観測したら『観測情報』を出す。2カ所で観測して発生に結び付くかどうか分からないときは『注意情報』、3カ所なら『予知情報』で、警戒宣言につながる」
―地震でプレスリップが観測されたことは。
「ない。東海地震が初めてになるかもしれない。東海地震でとらえられなければ考え直さないといけない。そもそも予知はできるのかという議論になるかも。東海地震の予知はチャレンジ(挑戦)。チャレンジは科学にとっても大事なことだ」
「プレスリップをとらえて、どれくらいで地震が起こるかは、実際に見てみないと分からない。どんどんプレスリップが進行する場合は2、3時間で地震に結び付く。2、3日かもしれないし、2、3週間かかるかもしれない。これは出たとこ勝負ではないか」
―予知は社会に役立つレベルに達していない。
「予知できる可能性はあり、私たちはそれを追求している。そのためには普段の状態を押さえておかなければ、異常状態をすぐに判断できない」
「政府の中央防災会議は2003年に東海地震対策の大綱を作り、予知できた場合と、予知できなかった場合の二通りの被害想定を考えた。予知はできるというのが大震法の精神で、国は予知を前提にしてあらゆる対策を考えてきた。国は予知できると言い続けてきて、国民に誤解を与えてきた節がある。それを是正する意味で、予知できないケースを初めて取り上げた。これは大転換で画期的なことだったと、私は評価している」
―予知に対する誤解は残っているのでは。
「昨年の静岡県民の意識調査では予知できるかもしれないという人は全体の3割だった。大震法に対する関心も薄れてきたし、予知できるという期待もかなりしぼんできたのではないか」
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| いしだ・みずほ氏 1943年、長野県生まれ。防災科学技術研究所フェローを経て2006年から現職。元日本地震学会会長。
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 | | 現状は期待できない
―大震法は必要か。
「大震法は地震防災対策強化地域を指定して地震予知を基に警戒宣言を出すということ以外に、防災基本計画や防災対策を立てるよう定めてある。今のままでいいかどうかは別として、こういう枠組みは必要だ。東海地震が予知できなかったらやめるということにはならないのではないか」
「問題点はある。大震法で、東海地震ばかりが注目された。その後、いろいろな場所で地震が起き、被害に遭った人たちからは『ここには地震は起きないと思っていた』という声が聞かれた。日本では地震はどこでも起こる可能性がある。防災対策が必要なのは東海地震だけではない」
―東海地震を予知できる可能性の根拠は何か。
「1944年に起きたマグニチュード(M)8クラスの東南海地震の直前に、御前崎で実施された水準測量で異常隆起が観測された。それが唯一の根拠で、もし同じ現象が現れたならば観測できる体制が敷かれている。だが近代的な観測網が整備されてからは歴史も浅いので、そういう観測例はほかの地震でもない」
「私が不思議に思うのは2003年の十勝沖地震(M8)で、震源域の極めて近くに海底地震計が置いてあったのに、地震の直前に何も観測されなかったことだ。もっとゆっくりとした変化があったのかもしれないが、それを震源から離れた陸地の観測で見つけることができるのかどうか」
―プレスリップというシナリオは妥当か。
「想定される東海地震のように海溝型の地震だと、プレスリップが起こる可能性はあると思う。あれだけの大きさの断層が滑るとき、前触れなしに突然滑りだすことがあるだろうか。ただ陸地の観測網に引っ掛かるほどのプレスリップがあるかどうかは分からない」
「かなり大きな地震でも滑り始めのところは小さいかもしれない。断層が滑り始めたとき、小さいままで終わるのか、その後に大きくなるかが、いつの時点で分かるかをめぐっては、いまだに議論がある。大きな地震は最初から大きい何かを持っていて判定できればいいが、今の段階では必ずしもそうとは言えない」
―予知ができない現状で地震にどう備えるか。
「予知情報が出ないまま地震が発生する可能性は多分にある。静岡県の人たちが必ずしも東海地震の予知の可能性を頭から信じて安心しているわけじゃないというのは、まあ妥当だと思う。それならば少なくとも自宅で家具に押しつぶされるようなことはないようにしておくべきだ」
「災害用伝言ダイヤル『171』の練習をしたことのある人はどれだけいるだろうか。地震はいつか来ることが分かっていても、危機感は何となく低い。予知にもいろんな段階があり、それらに対してどんな対応をするかを考えておかない限り、予知情報を受けても戸惑うだけだろう。結果として混乱を招くだけの予知になる恐れもある」
―予知はできるようになるのだろうか。
「どこでどの程度の大きさの地震が今後1年以内とか1日以内とかに起こるという予測ができたらいいが、今はまだできない。政府の地震調査委員会がやっている『何年以内に何%の確率で起こる』といった予測の精度を上げるのがせいぜいで、現状打開にはもう1つステップアップする何かが必要だ。普通の人が期待するような直前予知の情報を出すことはそう簡単にはできないと思う」
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大規模地震対策特別措置法 東海地震の発生の恐れが指摘されたのを受けて、大規模地震の発生が予知された際の被害軽減を目的に1978年に施行された法律。大きな被害が予想される地域を地震防災対策強化地域に指定し、観測体制の強化や警戒宣言発令など、防災上の特別な措置を定めている。予知情報を基に警戒宣言が発令されると、あらかじめ定めた地震防災基本計画に従って、強化地域内は一定の社会的規制下に入る。 | |
■次回(8月10日=日曜日)は「地震予知の可能性は」インタビュー
インタビューはいかがでしたか。阿部さんは、科学と住民の橋渡しとして大震法は必要とした上で、東海地震の予知は科学にとっての挑戦であり、可能性を追求しているとしました。石田さんは大震法自体の必要性は認めながら、地震予測の難しさを指摘し、どんな対応をするか考えておかなければ、混乱を招く恐れがあると主張しました。次回は県内の識者2人に聞きます。
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