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地震予知の可能性は  インタビュー(2)  (08/08/10)

 今回も「地震予知の可能性は」をテーマにインタビューです。明治期に緒に就いた日本の地震予知研究は、戦後1960年代に入って本格化しました。阪神・淡路大震災を契機に、地震発生までの過程を探り、モデルを構築することを主眼に新たな研究計画が進められています。観測網の充実やIT革新などで地震に関する重要な発見が相次ぎ、地震学の領域にとどまらない予知研究も盛んになっています。一方で、予知が防災に真に役立つのかどうか、問い直す声も聞かれます。県内で研究に取り組む専門家お2人に聞きました。

富士常葉大環境防災学部教授
小川雄二郎氏
 おがわ・ゆうじろう氏 1944年東京都生まれ。国連地域開発センター防災計画主幹、アジア防災センター所長などを経て、2002年から現職。
警戒宣言は危険な賭け

 ―地震予知の可能性をどのように受け止めていまか

 「本格的な予知研究が始まって以来、東海地域での海溝型地震は1度も発生していない。つまり、前兆現象や警戒宣言発令後に想定される事態の経験が全く得られていないということ。予知技術が発展、進歩していても、研究成果を実際に検証できていない現状では、不確実性が高すぎる」

 「(1978年の)大規模地震対策特別措置法(大震法)ができた当時、予知に対する期待は非常に高かった。だが、現在行われている防災訓練の大半は、東海地震の突発を想定している。予知情報を基に発令される警戒宣言に信頼性があれば、発令後の対応が訓練の中心になるはず。予知に依存するのは、一種の賭けだ」

 ―大震法の問題点は。

 「社会活動を制限する警戒宣言発令のシステムが一番の問題。予知の信頼性は低いのに、列車を止めるなど社会的な動きを制限される。まだ警戒宣言が出たことはなく、実証実験は本番の一発勝負。たとえ地震が起こらなくても、警戒宣言が解除されるまでの数時間から数日の間、市民は生活を続けなければならない。発令後、社会が停滞することで国民生活にどんな問題が生じ、どう対処するのだろうか」

 「社会的混乱に対する対策が見えてこない。予知できるというスタンスを維持したままでシステムを構築していることに危機感を覚える。国民に、警戒宣言が十分に理解されていないから、発令後に地震保険に入ろうとしたり、想定された震源域の外に逃げようとしたりする動きも出てくるだろう」

 「1度も検証されていないことをやるわけだから、警戒宣言を出す側、受け取る側の双方が初めての経験に困惑するはず。まだ発令経験がない警戒宣言を社会システムに組み込んだことは間違いだったと考えている」

 ―予知研究の取り組み自体についてはどう考えますか。

 「研究を続けることは重要。東海地震のエリアに限らず、全国各地の地震に対する研究を進め、データを集めていけば、予知に対する信頼性も高まるだろう」

 「現状では、警戒宣言を社会システムに適用させず、1つの参考情報として出せばいい。予知研究に基づいた警戒宣言が学問的な裏付けを得るまでは、トーンダウンして情報の受け手それぞれの判断に委ねるべきだ。一気に社会システムを変える混乱に比べたら、影響はまだ少ない」

 ―事前に地震発生が分かった場合、どのような行動が求められますか。

 「昨年以来、緊急地震速報の一般提供開始で地震情報に接する機会が増えた。猶予時間は大幅に短く、間に合わない可能性もあるとはいえ、警戒宣言と違って速報は実際の東海地震でもほぼ確実に発信される。当初は『役に立つのか』という疑問の声が目立ったが、事前に情報を入手できた場合に何ができるのか考える機会は増えたし、速報の効果や限界も浸透してきた」

 「これまで何度か強い地震が発生し、テレビなどを通じて速報が流れた。5秒あれば落下物から離れるなどの避難行動が取れる。経験を積んだことで、何らかの行動を取る重要性を市民が分かってきた。緊急地震速報は、事前に地震発生が分かった場合の行動を考えるトレーニングになる。もし猶予が数秒ではなく、数時間あれば何ができるか、どんな混乱が生じるかと考えていけば、警戒宣言発令時の対策にもつながる。速報はいい効果を発揮していると言える」

 ―受け手に必要な心構えとは何でしょうか。

 「予知の可能性に期待せず、突発地震に備えるのが基本。もし緊急地震速報が間に合うのなら、千載一遇のチャンスとして使えばいい。予知で人的被害は減らせるが、古い建物は予知の有無にかかわらず倒壊する。緊急地震速報が間に合わないことがあると知っている人は、既存の防災対策に力を入れようと思うはず。まず自分の命を守り、次に家族の命を守る。地道な取り組みを続けていくしかない」



 東海大地震予知研究センター長
長尾 年恭氏
 ながお・としやす氏 1955年生まれ。東京大大学院理学系研究科博士課程修了。金沢大助手などを経て2001年から東海大教授。専門は固体地球物理、地震電磁気学。

多分野の「知」を総動員


 ―地震研究の現状はどうなっているのでしょうか。

 「研究の面では阪神・淡路大震災以後、明らかに進んだといえる。地震がどういう現象かということが科学的によく分かってきて、それまで見えなかったものも見えてきた。一番の典型例が(浜名湖周辺などで観測されたプレート境界面が地震を起こさずにゆっくりと滑る)スロースリップや、低周波微動という現象などで、地震そのものの理解は非常に進んだ」

 「観測網が粗かった昔は、地震が起きたときにしかデータを記録できなかった。しかし観測網が整い、デジタルの技術革新が進み、地震活動にしても地殻変動にしても、GPS(衛星利用測位システム)などでふだんから連続的なデータが取れるようになった」

 「コンピューターの能力が上がり、シミュレーションも進んだ。日本列島は以前は『設計図のない古い家』だったが、研究によってようやく設計図ができ、これをちょっと押してみたり揺すってみたりとできるようになった。それで日本という『建物』がどれくらい強いのかもようやく分かってきた。そういう面では劇的な進歩が見られる」

 ―地震予知の可能性は広がっているのでしょうか。

 「予知ができるためには、前兆現象がなければいけない。その前兆現象に関しては、多くの人が確実にあると考えるようになった。物が壊れるときに、全部が何の前触れもなくいっぺんに壊れることの方が不思議。地面の中も、日本列島の地下は非常に傷だらけだし、強さは不均質だから、必ず最初に壊れる(断層が滑り出す)場所がある。それがプレスリップ(前兆滑り)という現象で、岩石実験でも確かめられ、東海地震の直前予知が可能との根拠であり、今の唯一の『物差し』となっている」

 「どこでどのぐらいの地震が起きうるかは、最近の地震のように不意打ちとか未知の内陸の活断層があったとかいわれるけれど、かなり分かってきている。肝心の『いつ』という点では前兆現象をつかまえるしかない。原理的にはそうした前兆現象はあるはずだが、問題は実際に試されたことがない、自然界のチェックが一切できていない点にある」

 ―実際の観測例がないプレスリップに頼るしかないのでしょうか。

 「プレスリップ以外の物差しを見つけることができるか。それが今後5年間、10年間の1番の課題だろう。われわれは、それを力学的現象以外の電磁気的現象で見つけたいと取り組んでいる。宇宙観測の進展などもあり、地震現象と大気現象、電離層の異常がリンクしている可能性が強いことが、近年、非常によく分かってきている」

 「電磁気現象には利点が多い。ひずみや地殻変動のような力学的現象と違って、電磁気は距離による減衰が少ないし、動きを直接電気的に高い感度で測れる。地震の前兆として地下で岩石が割れれば、地下は水浸しだから、クラックに水が入り、電流が流れる。それによる電離層、電波の変動などさまざまな異常をつかまえるのが狙いだ」

 ―異常と地震との関連づけが可能ですか。

 「異常が起こるメカニズムを解明し、理論的に確立できるかが最大の課題になるが、この面でも新進の研究が出てきている。来年からの新たな地震・火山噴火予知計画に東海大もメンバーに加えられ、それまでは組み込まれていなかった電磁気学的研究への理解が進んできている」

 「地震学的現象だけでなく、電磁気とか地下水とか、いろいろな分野の観測で同時に異常が出れば、だれでも怪しいと思うでしょう。それがどれだけまれな現象かを定量的に評価するには、日ごろのデータを集めておかねばならない。そうした『ハイブリッド』なシステムの設計も次期予知計画で始まろうとしている。まず、大学の知を総動員してメカニズムを探ろうと。非常にいい方向へ動きだしている」

 ―予知は防災につながりますか。

 「忘れてはいけないのは、予知ができたとしても、防災対策をしっかりしていなければ意味がない。予知ができたとして、それをどう伝え、受け止めるかという社会システムの成熟も課題でしょう」



■次回(8月17日=日曜日)は「地震予知の可能性は」投稿特集
 実証例に基づかないまま、警戒宣言という社会規制システムまで盛り込んだ東海地震の予知体制は果たして妥当か―。小川さんは予知研究の重要性を認めつつ、確かな防災を進める研究者の立場から、率直な問題提起をしています。長尾さんは研究者の努力が近年、地震に関する大きな成果を次々もたらしている点を強調し、幅広い分野の研究が連携することで、地震予知の次の展望が開ける可能性を示唆しました。次回は投稿特集です。地震予知への期待や問題点、防災の在り方など、多くのご意見をお待ちしています。


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